皆さん、こんにちは。

5月から5回にわたって、私が経験したヨーロッパの武者で修行についてブログを書かせていただきました。「面白い経験!」「感動しました」「素敵な思い出ですね」といったうれしいご感想をいただきましたが、この経験は、一人の柔道家の助言なしには実現しなかったものです。

その人は、鍛冶宏美(かじ ひろみ)さん。石川県出身の柔道家で、私と同い年です。でも、高校も大学も同じ学校に通ったことはありません。

鍛冶さんは高校時代に全国大会を2連覇し、筑波大学3年生の時は世界学生選手権も制しました。実業団でも国際大会で活躍した選手です。

鍛冶宏美さん。寝技も得意な選手でした。 写真:ご遺族提供

 

背中を押してくれた言葉

鍛冶さんと私の出会いは、高校3年生のとき。ドイツで開かれるジュニアの国際大会に一緒に出場することになり、初めて会話しました。

すでに有名な選手だった鍛冶さんですが、無名の高校生だった私にも気さくに話しかけてくれたのをよく覚えています。

高校生の時の全日本強化合宿にて。一番左が鍛冶さん、一番右が私です。二人とも男の子みたいですね!

その数年後、鍛冶さんと私がそれぞれ大学院へ進学した年のことです。友人づてに、

「鍛冶が夏休みに一人で海外へ修行に行った!」

という話を聞きました。当時、女子柔道選手が一人で海外に行ったなんて話は聞いたことがありません。私はその行動力に驚くとともに、憧れを抱きました。

次の年、大学院2年生の時。私は思うように成績を残せず全日本の強化選手(サッカーで言ったら“なでしこジャパン候補”のようなポジション)を外れ、これからの柔道人生をどう切り開いていこうか迷っていました。

そんな時、たまたま試合会場で鍛冶さんに会いました。

私:カジちゃん、去年一人で海外に行ったんでしょう?すごい!

鍛冶さん:うん、仲の良い先輩がスロベニアでコーチをしていてね。すごく良い経験になったよ。穂波ちゃんも行ったら?

私:えっ、私が……?

鍛冶さん:コーチの石原先輩はすごくいい人だし、穂波ちゃんと同じ-63㎏級に強い子がいて、練習相手を探しているらしいよ。紹介してあげる!

鍛冶さんのこの言葉から、私の武者修行が実現することになったのでした。

引退後は海外で柔道を指導。そして早すぎる死

鍛冶さんは28歳で競技を引退し、29歳から海外で指導し始めました。マカオや香港、クロアチア、カナダなど、その数10カ国・地域以上。海外で指導者として活躍しているという話を聞き、「ああ、カジちゃんらしいなあ」と、うれしくなったものです。

寝技を指導する鍛冶さん。写真:ご遺族提供

2016年。鍛冶さんに脳腫瘍が見つかりました。二度にわたる手術を乗り越え、本人も周囲の方々も復帰を目指し闘病生活を送っていました。私も、鍛冶さんが都内に入院していたときにお見舞いに行かせてもらいました。

しかし、その数か月後。鍛冶さんは、2017年6月18日に惜しまれながらその生涯を終えました。37歳、早すぎる死です。

いつもにこやかで穏やか、でも周りに流されず軽やかに自分の道を行く。それが鍛冶さんのイメージです。写真:ご遺族提供

なぜこんなに優しくて、魅力的で、多くの人に慕われる人が早く逝ってしまうのだろう? もっともっと、海外で柔道を指導したかったよね。

私の記憶に残るのは、いつも笑顔で、誰とでも仲良くなって、でも絶対に自分を貫く強さをもった鍛冶さん。あなたがいなかったら、今の私は成り立っていなかった。少なくとも、一人で武者修行なんかに行かなかった。

こんな風に、あなたは世界中の柔道家や柔道をしている子どもたちに大きな影響を与えたのでしょうね。

6月18日は、鍛冶さんの命日でした。

カジちゃん、あなたのことは絶対に忘れません。改めて、ありがとう。そして改めて、ご冥福をお祈りします。