言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。

これは人生のささやかな秘密の、オムニバス・ストーリー。

 


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2年ぶりに旅客が戻ってきた羽田空港

 

「ついにお客様が空港に帰ってきた……!」

空港職員専用の入口の前で、咲月は足を止め、感激のあまりつぶやいた。

空港ターミナル駅から出発ロビーに続く長いエスカレーターは、久しく見なかった行列ができている。

「そうよそうよ、やっぱり空港は少しくらい混んでたほうが高揚感あるよね……!」

頬を緩ませながら職員扉を開けると、「早番」で退勤する同期、美奈子とばったり遭遇した。

「咲月~! お疲れ、いや、おはよう! 咲月は遅番ね。金曜夜、ひっさびさのド満席だよ、やったね!」

「ド満席! 何年振りの響き……! 嬉しいけど、うわあ、休憩ナシの予感」

「間違いないわね……先週、遅番のカウンター責任者やったんだけど、下の子たちはこんなに忙しいのは数年ぶりで相当混乱してた。気合い入れていったほうがいい。前半の余裕あるときにお水しっかり飲んで。頑張れ!」

咲月と美奈子は航空業界の「OKサイン」、親指を立ててにっこり笑いあう。こんな浮かれたやりとりも久しぶりだ。咲月は「よし」とつぶやくと、コンビニエンスストアにゼリー飲料と水を買いに走った。