言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。
これは人生のささやかな秘密の、オムニバス・ストーリー。
足りない大阪行き最終便の座席
「さあ伊丹行き最終便、30人のオーバーブッキング。搭乗手続き締切まであと5分で、残り20席、チェックインしてない人は28人。席が足りなくなるかどうか……ギリギリの線ね」
カウンターの責任者である咲月は、難しい判断を迫られていた。
飛行機というのは、実際の座席数よりも少しだけ多めに予約をとることが多い。「予約を入れても実際には搭乗しない旅客」が一定の割合でいるためだ。ビジネス客が多い伊丹や札幌では、できるだけ満席で飛ばすために、長年のデータを解析し、予約をしても乗らない旅客数を予測し、その分多めに予約をとる。
しかし、多少の誤差はつきもので、その結果座席数が足りなくなった時は、咲月たちグランドスタッフの手腕に頼ることになる。
「うーん、募りますか、明日のフライトにしてくれる人」
後輩で、今日のカウンターで咲月の補佐に入っている優子が画面を睨んで腕を組む。座席が足りなくなりそうな時は、グランドスタッフの判断で、次便に振り返る旅客を募るのだ。
「でも最終便だから振替は明日になる。協力金1万円を数人分準備して、とりあえず希望者だけでも募っておこうか。ギリギリ行けるような気がするけど、際どい。あと4分か」
咲月と優子が頭を悩ませていると、カウンターに一人の男が近づいてきた。
「すみません、伊丹の最終、二人、キャンセルします」
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