言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。

これは人生のささやかな秘密の、オムニバス・ストーリー。

これまでの話 優子と咲月は羽田空港のグランドスタッフ。
ベテラン同僚として、公私共によきバディでもある。
ある日の仕事中、優子が沖縄便の不穏な「申し送り」に気が付いて……?
 
 


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今夜、羽田空港で事件発生!?

 

「大変じゃないの……」

優子は思わず呟いた。

羽田空港の大手航空会社グランドスタッフになって13年。さまざまなトラブルを経験してきた。人に言えるような楽しいネタから、とても口外できないような事件まで、目を閉じると昨日のことのようにありありと思い出せる。

しかし、「お子様一人旅サービス」でこれほどドキッとしたことはなかった。

多くの航空会社では、未成年が一人で飛行機を利用するとき、出発空港から到着空港までグランドスタッフやCAがアテンドするサービスがある。出発空港では、保護者から預かった「一人旅のお子様」をスタッフが搭乗口に連れて行き、CAも機内でケアをする。そして到着空港では再びグランドスタッフが飛行機から保護者との待ち合わせ場所まで連れていくという仕組みだ。

優子はもう一度、フライト情報が記載されているPC画面に目を走らせた。あと2時間ほどで羽田に到着予定のそのフライトに、一人旅サービスを利用している子が一人。

那覇空港のグランドスタッフからの申し送りを読んだ優子は、しばらく画面を凝視したあと画面をプリントアウトして、公私共に頼りにしている咲月の元に走った。

「ええ!? 誘拐!? ちょ、ちょっとどういうことよ、そんなのどうしてOKしちゃったわけ? 沖縄は!」

数分後、今度は超敏腕グランドスタッフ・咲月の悲鳴が空港のバックオフィスに響いた。