元接客のプロが見た「塾講師の落とし穴」


「私は、先生ってCAと同じように接客業だと思いました。他の先生はきっと勉強が得意で、その分ちょっとだけ上から目線。その点、私はさして勉強が得意じゃないので自信がありました(笑)。

塾の運営を仕事にすると決めたとき、私はそれらの実感を踏まえていくつか自分にルールを課します。先生は印象が肝心なので、姿勢や清潔感に徹底的に気を配る。偉そうにしない。そして教室では必ずスーツを着ること。

全て、10年のCA生活で、骨の髄まで大切さを痛感していたことです。見たところ、当時は塾の先生たちも、着ているものに構わない人が多かった。でも、人前に立って信頼を得ようとしたら、身だしなみも結構大切なこと。保護者も、清潔感があるしっかりした先生にお子さんを預けたいはず。そう、先生は接客業なんです。そのことに気づけたのはCA生活のおかげですね。そしてこの気づきこそ、私の強みであり、差別化できると思いました」

写真/高山浩数さん

NOKOさんの教室は、たちまち大人気に。あれよあれよという間に、福岡でも指折りの人気教室になります。当時を知る人に訊けば、NOKOさんは親御さんにも子どもたちにも大人気の先生で、普通は小学生が中心のはずの塾で、なんと高校生まで通う人も珍しくなかったとか。

 

NOKOさんが、いつまでも通っているのを心配して「補習塾のうちから大学受験するの? もっと大きい予備校に行った方がいいよ?」と勧めることもあったそう。また情に厚いNOKOさんは生徒たちのいわば駆け込み寺として、時に人生相談にのったり、恋の悩みを解決したりしながら、生徒一人ひとりと関係を築いて行きました。そのおかげで、名門大学に進学した教え子たちがアルバイトで教えに戻ってきてくれて、NOKOさんがカバーできない高校の数学もばっちり。人徳というほかありません。

そうして塾の経営は順調に推移し、最初は週に3日くらい、と思っていたにもかかわらずフルタイムで、週末も時間を割いて週6日ほども教室にいたそう。

「高校時代は絵を描いてばかりでろくに勉強していませんでしたから、数学をすっかり忘れていて、自習のために夜中の2時まで教材を解くことも(笑)。もう全然採算が取れていませんよね。でも楽しかったんです。勉強して、できなかったことができるようになって、あ、私もまだまだやればできるじゃんて思うのが楽しかった。生徒もみんな、とっても可愛くて。だから続いたんだと思います」

教室のお便りのはじっこに描く生徒の似顔絵も大人気。「先生、この絵、どこかで見たことがあるような……?」と保護者に言われることもあったそうですが、教室では先生としての威厳を保つため、イラストのプロであることは内緒にしていました。

そして塾を軌道に乗せたNOKOさんは、イラストの仕事もどうにか再開できないかと考えます。