言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。

これは人生のささやかな秘密の、オムニバス・ストーリー。

これまでの話
優子(34)と咲月(36)は羽田空港のグランドスタッフで良き仲間同士。
ある日、沖縄/羽田便で一人旅サービス利用中のみゆきちゃん(7)について、不穏な申し送りを発見。羽田で母親の迎えが遅れてしまうが、万が一離婚した父親が迎えに来ても決して渡してはならないという。「非道な父親による誘拐」を阻止すべく、グランドスタッフは一丸となって目を光らせることに。そして飛行機は到着。果たして……?
 
 


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羽田空港到着。緊迫の引率

「7年前、自分の子を...」空港でよみがえる記憶。34歳独身女子が抱える秘密_img0
 

優子はゲートの内側に入り、みゆきちゃんを乗せた飛行機が到着するのを待っていた。可動ブリッジを操作する男性スタッフの背中を見つめながら、次第に緊張感が高まってくる。

まだ7歳の女の子。でももう7歳。きっと両親が離婚したことは理解しているはずだ。

優子は目を閉じて、みゆきちゃんのことを考えた。

大好きな母親が入院して、沖縄のおばあちゃんの家に数週間滞在。一人で飛行機往復は初めて。今日は久しぶりに退院した母親に会える……。

「よし! 旅のラストは盛り上げなきゃ! 笑顔、笑顔!」

突然の独り言と百面相に、ブリッジを操作しているスタッフがギョッとしたようにこちらを見たが、優子は構うことなく気合を入れた。

飛行機のドアが、音を立てて、目の前で開いた。