言いそびれた言の葉たち。いつしかそれは「優しい嘘」にかたちを変える。

これは人生のささやかな秘密の、オムニバス・ストーリー。

これまでの話
優子(34)と咲月(36)は羽田空港のグランドスタッフで良き仲間。ある日、沖縄/羽田便で一人旅サービス利用中のみゆきちゃん(7)について、不穏な申し送りを発見。羽田に出現するかもしれない「離婚以来会っていない非道な父親」の誘拐を阻止すべくスタッフは一丸となって目を光らせることに。しかし降機したみゆきちゃんをアテンドするうちに、優子は自分が親権を渡してしまった娘のことを思い出していた。 
 


「優しい嘘をひとつだけ」連載一覧はこちら>>


いざ決戦。緊張の到着ロビー

 

待ち合わせ場所の到着口3番付近は、幸いにもさほど混みあってはいなかった。これなら3列あるベンチの中央でみゆきちゃんと優子、咲月が座っていても、不審者が近づいてきたらすぐに気が付くだろう。

「あと15分くらいでお母さん到着するはず! ここに座って待ってようね」

優子と咲月でみゆきちゃんの左右を狛犬のように固めて、3人はベンチに座った。

「みゆきちゃんのおばあちゃんのおうち、沖縄のどこらへん? 私も沖縄、旅行で何回も行ったよ、海がキレイだよね」

咲月が話しかけると、みゆきちゃんはさほど表情を変えず頷いた。

「恩納村だよ。海、見えるよ」

「そっかあ、素敵。おばあちゃんが沖縄にいるのって最高だね。これからはもうみゆきちゃん1人でも飛行機乗れちゃうしね!」

咲月がみゆきちゃんと話してくれている間に、優子はきょろきょろを周囲を見回した。接近してくる父親と思しき男は見えない。

しかし、視線をみゆきちゃんに戻したとき、ふとあることに気が付いた。