10のやりたいことがあれば、7の達成で満足せよ
「なにをしたいか」が定まり、場所を絞ることができたら、いよいよ実現に向けて動き出す番です。しかし、人生経験豊富な大人であれば、何事も理想通りにはいかないことは身にしみていると思います。それは移住でも同じこと。では、理想通りにいかなかったらその移住は「失敗」なのでしょうか? 宇都宮さんはうまくいかない場面で役に立つ心の持ちようを、取材した移住者・森本悠己さんの言葉を借りながら伝えています。
「『10のやりたいことがあれば、7つくらいの達成で満足することです』。つまり移住後の生活は7勝3敗で御の字だというのだ」
移住を機に飲食業から農業へと転身した森本さんは、休日らしい休日が取れない、収入が安定しない、早朝から作業に追われる、栽培法がわからないといった困難に直面したのだとか。それでも大満足だと話す森本さんの心境を、宇都宮さんはこのように分析しています。
「森本さんが最も実現したかったのは飛騨で暮らすこと、そして自然栽培で作物を育てることだったからだ。最も得たいものを得たのだから、得られないものがあっても満足できる。すべてを手に入れることなんてできないと思えば、移住後の満足度はぐっと上がるはずだ」
移住生活を充実させている人に共通する考え方
さらに、宇都宮さんは取材を通して、移住を成功へと導くヒントにたどり着きます。それは取材したほとんどの人に共通する考え方でした。
「移住を果たし、現在の暮らしに満足している人であっても、その9割以上が『永住するかどうかは分からない』と答えているのだ」
永住するかどうかは分からない──本のタイトルにある「お気軽」というワードはこのことを指していたのかもしれないですね。では、なぜこの考え方が成功へと導くのか。宇都宮さんはこのように考えました。
「理想の土地が見つかれば、また移住したいという人もいれば、永住しないという流動的な思考に心地よさを感じている人もいる。反対に『一度、移住したらこの地に骨を埋める』と覚悟してしまうと、自らにプレッシャーをかけることにもなり、その地で暮らし続けることに大きな障害を感じたとき、適切な判断ができなくなるかもしれない。あまり未来をガチッと決め込むのではなく、その都度、問題に対処しながら、日々を大切に楽しく暮らすというスタンスこそが、移住後の生活を充実させるカギだと言えそうだ」
宇都宮ミゲル(うつのみや みげる)さん:1967年東京生まれ。編集プロダクション「miguel.」代表。外資系保険会社を経て、ダイビング専門誌の編集者を12年務めた後に独立し、妻とともに編集プロダクションを立ち上げる。グラフィックデザインや旅、スポーツ、音楽、ビジネスなどを主な対象に執筆・編集。2015年に東京都浅草から奥多摩の山中にある古民家へ移住し、夫婦で子育てをしながら田舎暮らしと仕事を満喫。移住を機に移住専門誌『LOCOLA』編集長に就任、現在は里山暮らし専門誌『soil mag.』をプロデュース中。
『お気軽移住のライフハック100』
著者:宇都宮ミゲル 集英社インターナショナル 1760円(税込)
移住に必要な心構えや、身につけるべきスキル、近所付き合いのコツなど。憧れの移住生活に役立つさまざまなライフハック(=安楽に過ごすための技術)を、多くの移住者に取材し、自身も移住した経験をもつ著者が解説。TVや雑誌の田舎暮らし特集では見えてこない、リアルな移住のあり方を知ることができます。
構成/さくま健太
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