誰もが抱える、秘密。「嘘」にまつわる、オムニバス・ストーリー。

 


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息子を育てる母のクライマックス!?

 

早穂子は、ときめいていた。

52年間生きていて感激シーン5選は、①プロポーズ ②結婚式 ③妊娠の判明 ④1人息子の光輝を初めて腕に抱いたとき ⑤光輝が現役で東大に合格したとき が挙げられるが、ドキドキ具合でいえば今日はここに連なるレベル。

「いらっしゃいませ、あら早穂子さん! 暑い中、ご来店ありがとうございます。午後一番のこの時間ならケーキは全種類揃っていますよ」
 
白金台にある行きつけのケーキ屋さんで声をかけられ、早穂子はにんまりする。よくぞ話しかけてくれた。そのために最近できた流行りのパティスリーではなく、昔馴染みのお店にしたのかもしれない。

「そうなの、今夜は素敵なお客様が来るのよ。だから間違いのないこちらのお店でね。初めてのお客様だから選べるように、フルーツタルト、ショートケーキと……他におススメはある?」

「そうですね、お客様はお若い方ですか?」

「若いも若いわ、23歳のお嬢さんなの! 光輝がね、なんと初めてお付き合いしている方を連れてくるのよ」

女店主もそこまで訊いていないと思うが、早穂子はもう言わずにはいられない。

何せ、早穂子が世界で一番愛する1人息子の光輝の一大事。早穂子の頭の中では、午後の段取りが目まぐるしく巡っていた。