確かに小麦は食材の王様ですが、私たちが口にしている食品には小麦以外の食材もたくさん使われています。例えばパンやパスタといった小麦粉が主成分の食品については、原材料の3割から4割が小麦関連で占められていますが、同じ麦が主原料でも、ビールのような商品になってくると、広告宣伝費や税金の割合が高くなり、原材料が占める割合は1割以下となります。

上がり続ける小麦価格に政府が抑制策。家計への影響はどこまで期待できる?_img0
写真:Shutterstock

外食産業も同様で、原材料費の比率は20〜25%以下となっており、残りは人件費や光熱費、店舗の運営費など原材料以外のコストです。価格上昇が進んでいるのは小麦粉だけではなく、電気料金や資材・パッケージ、輸送費など、あらゆるものが値上がりしていますから、仮に小麦の価格が据え置かれたとしても、私たちが購入する商品の価格が大幅に抑制される可能性は低いでしょう。

もっとも、今回の価格据え置きに、全く効果がないわけではありません。

 

政府から事業者に売り渡される価格が据え置かれるという事実が国民に共有されれば、事業者としては値上げは決断しにくくなります。他の要因で値上げを検討していた事業者であっても、今回については値上げを見送るところも出てくるかもしれません。

このところ原油価格が下落の兆しを見せており、場合によってはインフレの影響が多少、やわらぐ可能性も見えています。しかしながら、以前と比べて価格が上がっていることに変わりはありませんし、事業者の中にはコスト上昇分をまだ転嫁できていないところもたくさんあります。しばらくは広範囲に値上げが続くと考えた方がよいでしょう。

加えて言うと、社会全体としてインフレに打ち勝つには、何としても賃金が上昇する必要がありますが、その兆候は見えていません。

私たちは消費者であると同時に企業で働く労働者でもありますから、企業が価格の据え置きを決定すると、場合によっては賃金の低下に繋がる可能性があります。消費者としては据え置きは有り難いのですが、会社員の立場で考えると、値上げが進まないと賃金が上がらないというジレンマがあります。

小麦価格の据え置きはあくまで対象療法であり、根本的には企業の生産性を向上させ、賃金を上げるための政策が必要です。今回の措置をきっかけに、抜本的な対策につなげられるのかに注目したいと思います。

上がり続ける小麦価格に政府が抑制策。家計への影響はどこまで期待できる?_img1
 


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