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漫画家による医療従事者への発言が波紋を呼ぶなど、医療逼迫について様々な意見が出ています。前回の記事では、日本の医療が逼迫するのは、日本の医療制度のそのものに課題があり、個別の要因で発生しているのではない、という現実について解説しました。今回は、もう少し突っ込んでこの問題に言及したいと思います。

 

【前回記事】世界に誇る「国民皆保険」が破綻寸前。コロナで突きつけられる日本の医療の現状とは>>

前回、説明したように、日本には誰でも平等に病院にかかることができる「国民皆保険」という世界に誇るべき制度があります。サラリーマンの場合、毎月の給料の約5%を保険料として支払うだけで、最先端の医療をわずかな自己負担で享受することができます(ほぼ同額を会社側も負担しています)。ここまで手厚い医療制度を持っている国は、日本だけといっても過言ではありません。

しかしながら、この素晴らしい仕組みを維持するためには、莫大な費用と人的なリソースが必要となります。誰でも、そしていつでも病院にかかれる分、医療機関は多数の患者を診る必要があり、1人の医療従事者が担当する患者数は欧米各国の3倍に達します。しかも日本の診療報酬(保険から医療機関に支払われる金額)は極めて安く、日本の医療機関は、常にギリギリの運営を余儀なくされているのが実状です。

こうした状況でコロナのような感染症が発生すると、医療機関には想像を超える負荷がかかります。

欧米各国では、感染症病棟で人出が不足すると、他の施設から応援を回す形で業務を維持します。日本でも「コロナとは関係ない病棟や施設から人員を回せばよい」という意見をよく耳にしますが、日本の場合、もともと医療体制に余裕がなく、こうした措置が簡単には実施できないのです。

もう少し具体的に説明してみましょう。

感染症への対応は、通常の2〜2.5倍の人員が必要となりますが、他の施設がギリギリの人員で業務を行っていた場合、そこから医師や看護師を異動させてしまうと、その施設の業務を継続できなくなります。人員をどうしても確保したい場合、重篤ではない患者に退院してもらう必要が出てきます。

重篤ではないといっても、入院している患者ですから、病状が急変する可能性があります。一時的に退院してもらったとしても継続的なフォローが必要であり、相応の人員が必要であることに変わりはありません。しかも日本の場合、簡単には退院を要請できない患者が多いという、海外にはない特殊事情があます。それは介護を要する高齢の入院患者と精神疾患を持つ入院患者の存在です。

 
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