どういうことに心が動いて、どんなふうに生きていきたいのか。自己投影できる言葉たち


石井ゆかりさんの『星占い的思考』は、自身の読書体験に重ねながら十二星座を読み解いていくという、いっぷう変わった占い本。哲学的エッセイ、と帯に書いてあるとおり、石井さんの深い思索が綴られていくので、「2022年はこんな年です」「○○座はこういう性格で、××座との相性はいいです」みたいな具体的な指南を求めている人が手にとったら、最初は肩透かしを食らうかもしれません。けれど、明瞭な答えがないからこそ、自分がどういう人間で、どういうことに心が動いて、どんなふうに生きていきたいのか、いま一度向き合うことができるのではないでしょうか。

本書では、各星座を語るにあたって、まずは書籍の引用が記載されます。たとえば私(筆者)の星座である魚座では、イギリスの作家イーヴリン・ウォーの小説『ブライヅヘッドふたたび』の一節。といっても、物語の主人公やイーヴリン・ウォーが、魚座だというわけではなく、〝誰かをそんなに憎むというのは、何か自分のうちにあるものを憎んでいることなんです〟という一文から始まるその引用が、石井さんの抱く魚座のイメージに重なっていくのです。憎い誰かに自分自身を見ていることに気づいたとき、ほとんどの人はプライドを深く傷つけられるけれど、二尾の魚が対になった魚座には、その傷つきが起こらないケースが多い。他者との境界線をはっきりともたない魚座は、まるで違うように思える個性と自分自身とを自在にいったりきたりすることができるのだ。……という、具合に。

自己責任でなくていい。――石井ゆかりさんの占いの言葉が私たちに刺さる理由_img0
 

12星座それぞれに引用される作品の幅の広さだけでも、石井さんがどれほど多くの物語に触れて、その思想や人々の生き様を吸い込んできたのかということが伝わってくるでしょう。吸い込みながら、解釈の可能性を育ててきた石井さんは、自分自身で紡ぐ言葉にも、その余地をもたせることを忘れません。魚座とはこういう性質をもっているのだ、とある種、断定したことを語りながら、まるで性質の違う私とあの人が「そうそう、そのとおり」と思わずうなずいてしまうほど、普遍的に自己投影できる何かが、そこにはあります。