誰もが抱えるささやかな「嘘」にまつわる、オムニバス・ストーリー。
港区タワーマンション怪談【明菜の場合】
明菜はため息をついた。
スマホの中には、小6の娘・亜美の塾の成績推移が表示されている。じんわりと、しかし確実に、右肩下がり。それを見るだけで、明菜の胸はぎゅうっと締め付けられる。
中学受験の初戦である1月は4カ月後に迫っている。この程度の偏差値のブレはよくあることだと、塾で配布される「合格体験記」に散々書いてあった。しかしそのことは明菜の心を安らかにはしない。
成績が下がる心当たりがあるのならばいい。しかし、明菜も亜美も、これ以上ないくらい夏休みに頑張った。亜美はほぼ毎日、12時から21時まで授業を受け、帰宅後も翌日の午前中も、ひたすらその復習に費やした。
明菜はテキストの間違えた問題をスキャンし、テストをファイルし、凄腕と噂される家庭教師をつれてきた。息抜きらしい息抜きは、夏休みの復習テストが終わった日、六本木ミッドタウンで亜美の好きな鉄板焼きを食べたくらい。それ以外は、全身全霊で取り組んだと胸を張っていえる。
それだけに、その夏休み最後のテスト、いわば集大成で成績が下がるというのは二重のショックだった。
これほど努力して、成績が下がるというのは、「地頭」が良くないということになりはしないか。これまで全速力で走って、悪くない悪くない位置につけていたのに、いよいよ「地頭組」についに追いつかれたということ? そしてそれは、勉強が得意ではない自分の血が混じってしまった結果かも……?
「そんなことないわ。亜美はきっと大丈夫。もっといい家庭教師を探さなくちゃ。最後の一押しがあればきっと持ち直すんだから」
明菜はいても立っていられずに、スマホに保存されているリンクをひらく。
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