戸次重幸、48歳の現在地「頑張って育ててきた果実を、今ようやく収穫できている」

――精神的な成長はいかがですか？

戸次：41歳で結婚して子供を授かったことが、僕の人生における大事件であり、二人の息子の存在が、僕を人として成長させてくれました。お子さんをお持ちの方はみなさんそうだと思うんですが、自分のことはどうでもよくなったんです。突然ですけど、僕は、桃が大好きなんです。子どもができるまでは桃を誰かにあげたいなんて思わなかったのに、今では息子のために皮を剥き、「お父ちゃんはいいから、全部食べな」と言えるようになったんです。マンゴーもですね。子供のおかげで、高級フルーツを独り占めしなくてもいいと思えるようになれました（笑）。これは、自分にとって相当大きな精神的成長です。

子どもを持ったことは、仕事にもすごくいい影響がありました。配信の時代になり、過去の作品もいくらでも見られるので「恥ずかしくない芝居をしよう」という意識が強くなりました。息子たちに「お父ちゃん、芝居下手だな」と思われたくないですからね（笑）。

――さきほど、『奇人たちの晩餐会』の話が出ましたが、ブログに「久々に緊張が止まらない舞台でした」と綴っていました。キャリアを重ねても、そういうものなのですね。

戸次：『A・NUMBER』も緊張する予感はすでにあります。でも、緊張しないにこしたことはないですよね。昔、長嶋茂雄さんがCMで「緊張を楽しむことができたら、その人は勝負強いですよ」とおっしゃっていましたが、なかなかそんな境地に辿り着けないですよね。「緊張してる、楽しい！」と思うなんて無理。　でも、緊張って失敗したくないからすると思うんです。

北海道で大泉洋とやっている番組で、新人アナウンサーが緊張していたので、「成功させようとするから、緊張するんだよ。失敗してもいいじゃん！」とアドバイスしたことがあります。舞台も、もちろん完璧であるべきですが、「これだけ台詞があれば、そりゃ噛むわ」と思えれば、緊張はほどける。緊張のメカニズムがわかっているので、自分自身で切り替えることもできるんです。

――今、映像・舞台問わず、さまざまな作品に精力的に取り組んでいらっしゃいますが、これまでの俳優人生で悔いは？

戸次：ありがたいことに、何もないですね。僕には過ぎた人生だと思っています。先日、北海道ロケをしたんですが、どこにいっても歓迎していただけたんです。それは、20代後半から我々TEAM NACSが、地元の北海道でやってきたベースがあるから。

思い起こせば、30代前半に初めて京都の太秦に行った時は楽屋もなく、各部署に菓子折りを配って……という感じでしたが、３回目の太秦で楽屋に〝戸次重幸〟と書いてあった時は泣きそうになりました。頑張って育ててきた果実を、今ようやく収穫できている実感があります。私のような〝48歳児〟と言われる男を、いっぱしの仕事ができる人間として扱っていただけて、若い頃の苦労も決して無駄ではなかったなと。

バイトもたくさんしましたね。僕は「いらっしゃいませ、ありがとうございました」と人を接客するのが好きで、俳優の道を選ばなければ、接客業をやっていたと思います。

――インタビューで笑いを交えて話してくださるサービス精神は、接客業が好きということと繋がっていそうですね。

戸次：TEAM NACSのメンバーはほぼ全員そうですよ。インタビュアーさんを笑わせることで、仕事の充実感を覚える連中ばかりですから（笑）。

戸次重幸　Shigeyuki Totsugi
1973年生まれ、北海道出身。演劇ユニット「TEAM NACS」メンバー。主演もバイプレーヤーもできる俳優として活躍し、『監察医 朝顔』『半沢直樹（2020年版）』『ファイトソング』『仮面ライダーリバイス』、連続テレビ小説『ちむどんどん』などさまざまな話題作に出演。現在、NHK総合「SONGS」（ナレーション）、『おにぎりあたためますか』(HTB)、『ハナタレックス』（HTB）にレギュラー出演中。