殺された女性たちそれぞれの人生が誠実に洗い出される一冊


犯罪ニュースで見落とされがちなものを見る力が養われる
ハリー ルーベンホールド 著
『切り裂きジャックに殺されたのは誰か』

【カルチャー中毒・宇垣美里】本好きのための3冊を選ぶ「感想を語る場があるから嬉しい」_img3

ハリー ルーベンホールド 著『切り裂きジャックに殺されたのは誰か』

宇垣:2冊目は、『切り裂きジャックに殺されたのは誰か』ですね。これはジャンルで言うとノンフィクションになります。切り裂きジャックは、皆さんご存知のように、19世紀のイギリスで、2ヵ月の間に5人の女性を殺したと言われる有名な殺人鬼。あまりにも有名で、切り裂きジャックについての本は今までにもたくさん出版されていますが、この本は、犯人であるジャックではなく、その事件で『殺された女性たち』に焦点を当てている本なんです。

 

娼婦だったと言われる彼女たちは、果たして本当に娼婦だったのか……この本ではその部分を丹念な調査で徹底的に洗い出し、検証しているんです。これを読むと、19世紀のイギリスの労働者の環境であったり、女性の立場だったりということもわかってきますし、殺された女性たちにもひとりひとり、それぞれの人生があり、一口に「娼婦」とまとめることなどできない存在であったと思い知らされます。その検証が本当に丁寧で誠実で……これは私が女性だから特に感じ入るところがあるのかもしれません。

そして読み終わると、「犯罪ニュース」を見るときの目も変わってきます。私たちは、何かセンセーショナルな事件が起こると、ついついその犯人の方に関心がいってしまいますが、実はその陰で見落とされたり、誤認されたりしてしまっている被害者の方がいるのかもしれない……そんなことを考えさせられる一冊です。