「死」の近くで暮らしていても、血が通っている人間であること


――いわゆる殺し屋である「仕掛人」。依頼を受ければ必ず完遂するという非情な生業です。でも、豊川さんが演じる藤枝梅安には、どこか身近さや人間臭さを感じさせられました。

豊川悦司さん(以下、豊川):人間味があるというのは、今回、自分の中でとても気をつけたことです。36度5分なのか、何度なのかわかりませんが、ちゃんと体温を感じられる。血が通っているということを意識して演じました。

 

――重く悲しいテーマも描かれていたのに、悲壮感だけではなく、温かみを感じたのもとても新鮮でした。

 

豊川:たとえば、食事のシーンなどですよね。(片岡愛之助さん演じる、同じく仕掛人の)彦次郎とおじさんふたりで酒を飲みながら話をするシーンが、僕もすごく好きなシーンです。菅野美穂さんが演じるおもんとは、作品の中で出会いからが描かれていますが、彦次郎と高畑淳子さんが演じるお手伝いのおせきとの出会いは描かれていない。それでも、信頼関係を感じるようなものがあるというか。実際、不思議とおふたりとも撮影の初日から自然とそういう関係になれました。彼らとのシーンは、ほんわかとする唯一の柔らかいパートだと思います。

――彦次郎に対しては、自分の命さえも迷わず預けられるという強い信頼感も伝わってきました。

豊川:相手によるとは思います。彼が信じているのは、彦次郎、おせき、おもんだけ。基本的には「死」にとても近いところで暮らしているので、人を信用するというのは、したくてもできない。信用したくてもそうしようと意図的にしていないと思いながら演じました。

――豊川さんはどうですか? 人を信じる?

豊川:どうなんでしょうね。それはわかりませんが、どちらかというと、いろんな人と友達になっていくというよりは、一人の相手とじっくりとというタイプ。ただ、あんまり深く考えていないですね。仕事の上でいえば、マネージャーや事務所のスタッフになりますね。

僕は、あまり友達がいないんですよ。よく幼稚園から大学まで一緒の幼馴染がいるという方の話を聞くと、本当に羨ましいですね。大人になると、なかなかそこまで深い関係になることもないような気がするから。だから、素敵だなと思いますよ、梅安と彦次郎の関係は。僕も彼のような友人が欲しいと思いました。