推しに対する心情や描写をウィットに富んだ独特な言い回しで表現するVanessa(ヴァネッサ)さん。そのツイートは毎回多くの人のツボにはまっています。Twitterのプロフィール欄には「推しホスピタリティの権化すぎ」の文言が。そんな「推し語り」の大先輩と、「推しに生きる意味をもらった」という推し語りライター・ヒオカさんが、書籍『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』を手に、共通の推しである羽生結弦選手について語り合います。対談後編は、2人の「推し論」についてじっくりお届け!

羽生結弦選手のプロ転向に、私たちが今思うこと。どれだけ偉大でも「神格化」はしたくない【Vanessa×ヒオカの推し語り】_img0
羽生結弦選手のプログラム「パリの散歩道」での決めポーズをとってくれるお2人。
 


Vanessa(ヴァネッサ)さん[写真右]
口数の多いメイクアップアーティスト。地元のあぜ道に停めた車の中から、日々の吐き出したい思いを早口で小気味よく繰り出す日記動画がSNSで人気に。ネガティブなのにスカッと笑える「発散するビデオダイアリー」と「推し」への狂愛ぶりにハマる人続出。著書に『自尊心削られながら個性を出せって、どんな罰ゲームだよ?』『ネガティブ思考を美味しくいただくために』(いずれもKADOKAWA)がある。
Twitter: @hsm_0715 Instagram:@vanessadesu

ヒオカさん[写真左]
ライター。1995年生まれ。地方の貧困家庭で育つ。自身の体験記を書いたところ、話題を呼びライターの道へ。格安シェアハウスでの極限生活を脱すると共に推しに目覚め、推しについていても記事を書くように。推しは羽生結弦選手、中川家、平手友梨奈、ちゃんみな、東京ゲゲゲイなど。自身初の著書『死にそうだけど生きてます』(CCCメディアハウス)が2022年9月1日に発売。連載中の媒体に、婦人公論.jp「ヒオカの『貧しても鈍さない 貧しても利する』」、ミモレ「ライター・ヒオカ 足元はいつもぬかるんでいる」がある。若手論客として、新聞、テレビ、ラジオにも出演。
Twitter:@kusuboku35

対談前編はこちら!
職業・羽生結弦。その魅力を、「紙コップ」と「髪の毛の先」になりたい2人が語る【Vanessa×ヒオカの推し語り】>>

認知されなくていい。神格化もしたくない


ヒオカさん(以下、ヒオカ) 先日、週刊誌に私が出版した本のインタビューを掲載していただいたんですけど、ミラクルが起きて、たまたま羽生くんが表紙の号だったんです(朝日新聞出版『AERA』、2022年12/12号)。著書にも「心の師が羽生くん」って書いているので、それもライターさんが記事に書いてくださって。いろんな人から、「もしかしたら羽生くんも見てくれるかもしれないよ」って言われたんです。

でも私的に、「推しに自分の存在を認知されたい」っていうのは全くなくて、むしろ逆なんです。知られずに遠くから、ただ幸せを願いたいという心理なんですよね。推し語りの大先輩であるVanessaさんにも、推し論をお聞きしたいです。

Vanessaさん(以下、Vanessa) 神格化したくない、というのが大前提にあります。羽生くんだから、羽生くんは完璧だから、羽生くんが法律だから、憲法だから……みたいな感じで神格化されている部分があると思うんです。でも、羽生くんだって不調なときはあるし、ニキビだってできる。神格化することで、背負ってしまうものが大きくなるんじゃないかって。神格化されることで、自分の中で「羽生結弦」というプロ意識がすごく強くなっていくというか。それが苦しみにもなっていっちゃうかもしれない。

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マスコミがどんなに追っても、練習会場と家の往復しかしてないような生真面目な人なんですけど、本当は遊んだっていいじゃないですか。でも、もし結果が出なかったときは、「羽生くんはこうあるべき」「きっと清廉潔白だ」「こういうことはしない」って神格化してきた人たちに、勝手に色々言われてしまうから、羽生ブランドをすごく保とうとしているのかなって。だから1人ぐらい、羽生くんだって人間だよね、っていうことを念頭に推す人がいてもいいと思うんです。

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上下:平昌五輪・フリーでの演技を終えた羽生選手(2018年2月17日)/写真=『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』P177より(時事通信社)


「辛い」と言ってくれたことで救われた


Vanessa もちろん、偉大な結果を残しているし、言動もあまりに完璧なので、神格化せざるを得ない要素もすごくあるんですけど。私は、神格化しないようにしてます。もどかしいんです。人間の境地を超えてるとか、人間が出せる感情の限界を突破してるとか、そういう言葉を使いたくなるんですけど、自分の中の神格化したくないというポリシーにギリギリ引っ掛かりそうで、毎回悩むんです。「うんとねぇ、うんとねぇ」って。

ヒオカ 羽生くんって、究極に人間らしいところと、人間を超越した領域というのが共存していると思うんですよ。そのギャップがいいなと。どちらも羽生くんみたいな気もします。羽生くんの人間らしさといえば、プロ転向後のインタビューで「自分が言葉を発せられないところで、色々言われてしまうのが辛い」と言ってたんです。羽生くんが辛い、と言ってくれたことで私は救われたというか。この世の奇跡の集合体みたいな人でも言い知れぬ苦しみがあり、打ちひしがれることもある。孤独にさいなまれることもある。羽生くんも同じ人間なんだなあって。

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Vanessa 皮肉ですよね。苦しんでいる推しを見て、初めて親近感を抱いたり、救われる人がいるって。表現者というか、表に立つ人ならではの苦しみですね。

ヒオカ そうですね。

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羽生結弦選手の「推し語り」に夢中の2人
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