「年をとると良いこともある」は負け惜しみ?
「何か変」な両親のもとに生まれ、やがて自分の家庭を築いていった桂子さんは、ミモレ世代である40代の頃はどうだったのでしょうか?
桂子「記憶がない! 将来のこととか考えたこともなかったから、今思うとぞっとしますね。でも、考えなかったというのは、ある意味いい時期だったということなのかも」
圭男「40代って、まだバラ色の世界があると思える最後の年代ですよね。我々くらいになると、どうなるかだいたい分かってしまうから(笑)」
桂子「心配事が頭に出てきて寝られなくなることもあるけど、最近、『いま考えてもしょうがない』って、頭の中から追い出せるようになってきました。そうすると、天から何かが落っこってきて、うまく乗り越えられるようになるんです」
”断捨離”なんてつまらない(笑)
いいものは不思議と流行遅れもない
「年を取るのは悪いことではなく、良いこともある」と言っていた、晩年の正子さん。
桂子「負け惜しみ言って! と思っていましたけど(笑)、どうもそうじゃないみたい。例えば人の顔を見ていると何となく分かるような気がします」
かつて両親はよく、「美醜じゃなくて、変な顔をしているやつはだめだ。顔の良し悪しに人間の良し悪しが出る」と話していたそう。
桂子「最近になって“いい顔”をしている人が分かるようになってきたんです。年の功ってやつなのかもしれませんね」
骨董や着物をこよなく愛し、亡くなる直前まで集め続けた正子さんを母に持つ桂子さんから見て、最近注目を集める、モノの少ないシンプルな暮らしはどのように映るのでしょうか?
桂子「“断捨離(だんしゃり)”とか羨ましいと思ったこともあるけど、あんなことしたら何も残らないわよね」
以前、部屋には何もなく、洋服ダンスに黒と白の服しかないシンプルライフを提唱する人をテレビで見て「つまらない」と思ったという桂子さん。
桂子「いいものを大事に使っていたら、不思議なことに流行遅れってないんですよね。正子さんなんてまさに物欲の王者(笑)。人もモノもすごく好きでしたね。シンプルライフってモノを捨てることではなく、逆に一回りして大事にすることなのかな、って思います」
「武相荘」には、次郎さんと正子さんが日々を丁寧に暮らした様子が、そのまま残されています。この空間を守っている桂子さんと圭男さんもまた、モノを慈しみ、大切にした両親の心を受け継いでいるのかもしれません。
「旧白洲邸 武相荘」
白洲次郎、正子夫妻が60年近く暮らし続けた茅葺屋根の農家や、自然が残る空間をそのまま残しています。2015年には竹林を通り抜ける散策路や、レストラン&カフェをリニューアルオープン。写真は、野菜嫌いの次郎さんが、カレーに添えられたキャベツは残さず食べたことから、千切りキャベツが添えられた「武相荘の海老カレー」(2100円)。メニューは季節・日によって変わります。
新緑の武相荘で鹿児島郷土料理を愉しむ「薩摩ナイト」(2016年6月5日開催)など、各種イベントも定期的に開催。四季折々を彩る庭園も見事! 季節ごとに訪れてみて。
■場所:東京都町田市能ケ谷7-3-2
■公開時間:ミュージアム 10:00〜17:00(入館料1050円)
ショップ 10:00〜17:00
レストラン&カフェ 11:00〜20:00(LO)
■定休日:月曜定休
http://buaiso.com/
撮影/平林直己
取材・文/吉川明子
構成/川端里恵(編集部)
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