敢えて、弁護士を前面に出さない作戦
「夫のように自己愛性人格障害の兆候がある場合、勝ち負けに持ち込んだら、たいていいい結果にはなりません。優秀でプライドが高く、自分の優位性を示すために相手を徹底的に打ち負かそうとするからです。弁護士を立てて、全面対決すると、あることないこと言ってどんな手を使っても勝とうとするはず。そこで証拠集めは専門家や弁護士のアドバイスを受けましたが、離婚を提案するときはバックアップ態勢を伏せて、一人で切り出しました」
淡々と浮気の証拠を並べると、圭佑さんは激昂したそうです。しかし、計画的に人目があるホテルのラウンジで切り出したこと、冷静に決定的な証拠を並べたことで、人前では社会的なルールを逸脱したくないと考える彼は「まずい」と考えた様子でした。自分で調べるうちに、争ったならば自分が負けると察したのでしょう。
妻に精神的なDVをはたらいていたこと、浮気していたこと、生活費をろくに渡していないことが第三者に露呈し、さらに涼子さんが吹聴したら、親戚や友人、同僚がどう思うかということをひたすら気にする彼。それを逆手にとった、涼子さんの見事な反撃でした。
結果的に、圭佑さんは「円満離婚」を装い、養育費も平均的な額よりもかなり多く払っているといいます。弁護士の助言の通り、公正証書に残すことにも成功しました。性格の不一致で別れたということにするという条件で、慰謝料の意味合いなのか300万円を払ったそうです。
「そこまでして、周囲に悪く思われたくないのか……とあきれる気持ちもありましたが、子どもとの生活を守り、彼のモラハラがこれ以上私たちに及ばないことが大切だと考え、その条件をのみました。彼は他人に戻った途端、危害は加えなくなり、子どもの誕生日などにはプレゼントを送ってくるなどパフォーマンスはしてくれます。
今になって思うのは、彼は私のことを持ち物のように思い、何をしてもいい対象だと思っていた。私も彼に飲まれ、やがて自分を大切にすることを忘れ、ひたすら振り回され、傷つけられることをしのぐだけでいろんなことを見失っていました。
そこから抜け出せたのは、ほんの少しずつですが、勉強したり、知識をつけたり、専門家にリーチするために動いてみたおかげです。仕事や子育てをしながら、防御しつつ支配下から抜け出す苦労は壮絶だから、現状維持できないかと思ってしまいますよね。でも、今苦しんでいる人がいたら、とにかく誰かにSOSを出してほしいと思います」
現在は、雑貨店の仕事を続けながら、WEBデザイナーの資格もとり、副業として経験を積んでいるという涼子さん。プライベートでは、専門家のアドバイスを受けながら自身の傷を癒すためカウンセリングを受け、さらに配偶者のモラハラに苦しむ人のコミュニティをつくり、助け合うために話し合っているそうです。
元来、誰かの役にたちたい、いろんなことをやってみたい、という想いが胸にあふれている涼子さん。いつかまた古着店をオープンし、WEBデザイナーとしてもスキルを磨くのが夢だそう。再び掴んだその夢を応援したいと思わずにはいられませんでした。
写真/Shutterstock
取材・文/佐野倫子
構成/山本理沙
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