不思議なのは、丸川氏がアナウンサー出身という点です。アナウンサーは言葉のプロフェッショナルであり、言葉のトーンや言い回しが、聞いている人にどのような印象を与えるのか、誰よりも熟知しているはずです。今回の一件については、神妙な面持ちで「愚かだったのは私の方だったと思います」「口に出してしまったものは消すことはできないので、今後の私の政治活動を通じて国民の皆さんの理解を得ていきたい」などと謝罪すれば、好感度も上がったことでしょう。

それにもかかわらず、なぜ丸川氏はストレートに謝罪しないのでしょうか。永田町に詳しい関係者が筆者に語ったところによると、今回の一件には政治的な背景が関係しているとのことです。

丸川氏は知名度は高いですが、アナウンサーから政治家に転身したこともあり、党内に強固な権力基盤があったわけではありません。古い体質の自民党内で地位を固めるには、重鎮たちが口にしにくいことを積極的に口にして、評価を上げる必要があったと言われています(実際、丸川氏の絶叫は、党内ではそれなりに高く評価されたそうです)。

当時、丸川氏の発言が自民党内でどう評価されていたかを窺わせるのが、発言と合わせて指摘されている「愚か者めTシャツ」。党の広報戦略局長だった平井卓也元デジタル相の発案で制作、1枚1500円で党本部の売店やオンラインショップで販売していた。

 

さらに岸田政権に変わり、党内の権力バランスが大きく変わったことも影響しているようです。

自民党はかつて猛批判していた所得制限なしの手当て導入について検討を始めたわけですから、野党から「以前と言っていることが違う」と指摘されるのはほぼ確実です。実際、今国会で丸川氏の発言が取り上げられ、大騒ぎとなったわけですが、岸田氏はあっさり謝罪してしまいました。

「所得制限なしの子ども手当」に壮絶ヤジの丸川議員が、批判されても素直に謝罪しない“政治的背景”_img0
2007年7月の参議院選挙で、丸川氏の応援演説に立つ安倍晋三首相と石原慎太郎東京都知事(肩書はともに当時)。写真:アフロ

結果として丸川氏に批判が集中することになり、丸川氏の党内での影響力は今後、低下せざるを得ません。丸川氏は、安倍元首相に近い議員としても知られており、2024年に予定されている東京都知事選に出馬するとの噂もありました。つまり、丸川氏は党内の権力闘争によってハシゴを外された状況であり、よほど腹に据えかねているのかもしれません。

政治の世界は綺麗事だけでは済みませんから、こうした背景があることは十分に考えられます。しかしながら最後の最後に政治家の命運を決めるのは有権者の投票ですから、有権者の不興を買う発言はマイナスにしかなりません。政治家は言葉を大事にし、非がある場合にはストレートに謝罪すべきというのは、多くの国民の総意ではないでしょうか。
 

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