もう一度会いたい、名前も聞けなかった猫の話
新美:もし一番を選ぶとしたら、手すりでポーズをとってる「あとがき」のこの子ですね。窓からお兄さんがコーヒーを飲みながら手を振ってくれたんですけど、残念ながら話しかけていないんです。その日は日曜日の朝早い時間だったので近所迷惑になったらいけないと思ったのと、私の移動日で時間がなくて。
新美:前の日には、雨上がりにこの猫が足をぶらぶらさせていて、この時には時間があったので猫の話を聞けたらよかったんですが、飼い主さんがお家にいなかったんですね。せめてこの子の名前だけでも、近所の人に聞けばよかったなと今でも思っているんです。
本当に心から褒めると猫はすごく喜ぶ
——新美さんが撮る猫たちは、どの子もリラックスした表情に見えます。猫と仲良くなる方法をぜひ教えてほしいです。
新美:その国で、猫を呼び寄せる時にどう呼んでいるかを聞いておくといいと思います。ギリシャでは「エラエラエラ」、東南アジアでは「ミミミミミ」。一番気に入ってるのはイタリアで、「ミーチョ」って呼ぶんですよ。幼児言葉で“子猫ちゃん”という意味なんですって。そうして呼ぶと、猫が振り返ってすごく喜ぶんです。自分のことを、親しみをこめて呼んでくれるんだ! みたいに。
新美:猫って人の心を読む力があるので、私はどういうふうに猫を呼んでいいかわからない時は日本語で褒めます。「かっこいい猫ちゃん」「尻尾が立派だね」とか何でもいいので心から褒めてあげると、猫がピタッと一瞬ポーズをとって決め顔をしてくれることがあります。
猫が健康でいるのは飼い主さんやお世話してる人のおかげ
——新美さんは、「まどねこ」の魅力はどんなところだと思いますか?
新美:私はどの猫を撮る時でも、必ず飼い主さんやお世話している人に感謝して撮ります。猫はひとりじゃ生きていけないので。もちろん、目の前にお世話している人がいたら言葉で伝えるけれど、いなかったとしても心の中で、猫が健康に過ごしていることと、この猫に今日会えたことを感謝します。猫との出会いが面白いのは、やっぱり背景に人がいるからだと思います。
新美:猫が健康でいるのは飼い主さんの努力によるものだと思っているので、たまには飼い主さん自身が自分を褒めてあげてほしいですね。「猫の日」は、猫ちゃんを愛でる日だけじゃなくて、飼い主さんご自身が猫ちゃんをどれだけ大事に育ててらっしゃるかということを、ちゃんと褒めてあげる日だと思うんです。私も「うちの猫になってくれてありがとうね」って、飼っている猫には毎日のように言ってますけれども、猫の日には自分も褒めてやりたいですね。
『世界のまどねこ』
著者:新美敬子(にいみけいこ) 講談社文庫 1012円(税込)
猫は窓が大すき! 窓辺で猫は、光と風を感じながら過ごしている。世界を旅するフォトグラファーが出会った「まどねこ」たち。ファドが好きならここがいいよ、と小劇場の窓に誘ってくれた君/ポルトガル。運河の橋のたもとでジャスセッション、窓辺の君もステップを踏み始めた/オランダ。朝、昼、夜の光が町も猫の表情も変える。とびっきりの猫フォトエッセイ。オールカラーの文庫オリジナル。電車でも旅先でも、タブレットやスマホでいつでも気軽に「まどねこ」たちに会える電子版もおすすめです、と新美さん。
著者プロフィール
新美敬子(にいみ・けいこ)さん
1962年愛知県豊橋市生まれ。犬猫写真家。1988年よりテレビ番組制作の仕事につき、写真と映像を学ぶ。世界を旅して出会った猫や犬と人々との関係を、写真とエッセイで発表し続ける。近著に『猫のハローワーク』『猫のハローワーク2』(講談社文庫)をはじめ、『世界の看板にゃんこ』(河出書房新社)『わたしが撮りたい“猫となり"』(主婦の友社)など。近刊は『世界のまどねこ』(講談社文庫)。
写真/新美敬子
取材・文/大槻由実子
構成/金澤英恵
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