――自分の動機や弱みを知るにはどうしたらよいのでしょうか。
高橋:代表的なものでいうとMBTI(マイヤーズ・ブリッグスタイプ指標)やエニアグラムなどの性格診断ツールがありますので、それらを受けてみるのがよいでしょう。また、動機(内的動機)は、主にゲノムや幼少期の影響により形成され、成人になる前にほぼ固定されると考えられています。遺伝子解析サービスを利用するのも一つかもしれませんね。
自己理解を深め、“布石”を打って、よりよい偶然を引き寄せる
――ほかに「自分らしいキャリア」「幸せなキャリア」形成のために必要なことは何でしょうか。
高橋:まず、キャリアは計画的に・自分の思い通りに作れないことを前提としてください。これは、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が「個人のキャリア形成において、最大で約8割が偶然の出来事に左右されている」と「計画的偶発性理論」証明しています。
だからと言って、何をしても無駄だということではありません。クランボルツ教授は同時に「より良い偶然がたくさん起きている人とそうでない人がいて、その違いは普段の行いにある」とも述べています。また、われわれが行った調査でも、幸せなキャリアを形成している人ほど職業人生における偶然の出会いを経験しているという結果が出ています。
では、良い偶然や出会いに恵まれるためにはどうすればいいのか。ここでカギになるのが、“布石を打つ”ことです。
自己理解を深め、短期的な都合ではない、自分の根底にある「大切にしたいもの」を認識しましょう。また、なんとなく惹かれるもの、興味のあるものを大切にするのもよいでしょう。そうしたところから、「出世には関係ないけれど、あの人と話してみよう」「なんとなく面白そうだから、あの勉強をしてみよう」など、仕事やキャリアアップに直接関係ない人脈に投資したり、学んだりするのです。こうしたことを、私は「布石を打つ」と表現しています。
これらの行動は、「将来こうなりたいからこの人とつながっておこう、この勉強をしよう」と、予想して行っているわけではありません。しかし、普段からこうして布石を打っていると、その中のいくつかが意外な形で活き、チャンスが巡ってくるのです。
――最後に、ミモレ読者の皆さんにメッセージをお願いします。
高橋:キャリアの世界では、しばしば「自分の値段」という言葉が取りざたされます。しかし、大切なのは、自分の値段という社会が与える価値軸ではなく、「自分の軸」を知ることです。自分の軸とは、「自分の動機」であり、この自分の動機を知ることが、動機とマッチングした幸せなキャリアをつくることにつながるのです。
また、女性の場合、たとえば出産、育児休暇を「ブランク」ととらえたり、子育てをしながら働くなかでもどかしさや悩みを抱えたりするかもしれません。しかし、「働く母親」という自分の特性、ユニークネスをどこかで活かせるはずです。人生にムダはありません。むしろ、計画通りにいかないキャリアだからこそ、「ムリ・ムダ・ムラ」がいざというときに役立つのです。
文/吉澤穂波
前回記事「キャリアに勝ち負けなし! あるのは、「幸せなキャリア」と「不幸なキャリア」【高橋俊介氏インタビュー】」>>
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