見つからない「秘密のあるもの」


「あの、皆藤さん。母は、大事なものはどこにしまっていたんでしょうか。こんなことを娘の私がお伺いするのは大変恥ずかしいんですが……。午前中に一通り探して、和室の桐のタンスのうえとか、居間の小物入れあたりだと思ったんですけど、見当たらなくて。本人は記憶がまだらなんです。

皆藤さんが町内会の集金を立替えてくれたときは後からお渡しする、って聞いたので。その時、母はどこから出していましたか?」

入院のお金は立て替えたことを機に、この先のためにお金や保険、財産の状況を整理しておこうと考えていた。

……さすがに皆藤さんには言えなかったが、以前の母の話では、お父さんの恩給の一部は「箪笥預金」をしていて、その額は数百万になるようなのだ。なんでそんな危ないことを……と思うが、銀行を信用しきらないところがなんとも高齢者らしい。

この家のどこかに2000万円が...!?認知症の母の言葉を頼りに実家に戻った娘。そこにいた男の奇妙な行動とは?_img2
 

「さあて、そういうのは俺には三田さん話さないから……あ、でもね、庭の納屋にはしごをかけると上がれるところがあるでしょ? あそこには大事なお茶の道具なんか入れてあるって、ときどき上ってたみたいでね、はしごをかけるの手伝ったことあるよ」

 

「え! それはまだ見てませんでした。ちょっと今から見てきます!」

「じゃあ俺も一緒に行ってやろうかね、はしごが重いからな」

私たちは縁側から庭に出て、その奥の畑エリアにある納屋に入った。いつの間にか、さっきまでの晴天が嘘のように雲が空を覆っていた。まだ春だというのに、夕立があるのかもしれない。

「うわ~、懐かしい……! 子どものころはこの納屋、ちょっと埃臭くて苦手だったけど、今見るとなんだか秘密基地みたいでわくわくしますね。あれ? 電球が切れてる? お母さんじゃ届かないから無理ないか」

私が少し背伸びをして電球に触っていると、皆藤さんが外にあった5段ほどの脚立を持ってきた。広げてひょいと上ると、接触を確かめるかのように電球を何度か回して様子を見てくれる。

――!?

そのとき、何かが、私の頭の中で点滅した。
 

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