平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
お隣のあの人の独白に、そっと耳を傾けてみましょう……。

第3話 意地悪な義父

 

「喪服、やっぱりちょっとキツイ……最後に着たの出産前だから、10年前くらい? 10キロ近く太っちゃったもんなあ」

私は玄関の鏡の前で呟いた。義父の葬儀の前に、こんな風に冷めているなんて、我ながらちょっとひどい嫁だなとは思う。でも、息子である夫のほうがさらにクールで、あからさまに「これでおふくろも自由になるだろ」などと言っているのだから、仕方ないとも言える。

 

「お義父さん、今どき嫁いびりするんだもん、自業自得よ。泣いてなくても許してくださいね」

我が家は二世帯住宅で、玄関が同じ。1階が義両親で、2階が私たちの家。台所やトイレ、お風呂は別々だったので、結婚当初は都内の一等地で広々とした一軒家に住めるならまあいいかな、くらいに考えていた。

しかし、暮らし始めてみると生活音や話し声には気を遣うし、何より大きな誤算に気がついた。

横柄なだけとたかをくくっていたお義父さんが、地味に嫌がらせをしてこようとは。

もともと夫から「親父は問題があって、外面はいいけど家では暴君。おふくろに手を上げることもある姑息な奴なんだ」ときいていた。しかし結婚前に何度か顔合わせをしたときは、私や両親には愛想も悪くなく、そもそも嫁にはさほど興味がないのか、実害はなかった。

ただ、お義母さんがお義父さんに対して異常に気を遣っていて、ときに可哀想なくらい素早く身の回りの世話をしているのを見て、なるべく関わらないようにしよう、と思ったことは覚えている。

しかし、実際に2世帯住宅生活が始まると、ひっかかることはいくつもあった。
 

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ありふれた日常に潜む、怖い秘密。そうっと覗いてみましょう……
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