私たちがいつの間にか抱えてしまう、日常の「怖い秘密」。
隣のあの人の独白に、そっと耳を傾けてみましょう……。


第1話 無関心な彼女

 

「久美! 久美! 電動ひげそりが壊れたって言ったろ? 新しいやつ昨日頼んだよな? 出しとけよ!」

夫の晃司さんが、朝から私を呼んでいる。少し息を吐き出すと、朝食の準備の手を止めて、洗面所に急いで向かった。

「ごめんなさい、2軒探したんだけど、同じメーカーのが見つからなくて……お店で注文してきたから、3日待ってくれる?」

「はあ!? お前、それまで俺にひげ剃るなって言うの? 店で注文てなんだよ、amazonでポチれよ、今時」

「ごめんね、とりあえず使い捨てでなるべく肌に優しいひげそり、店員さんにきいて買ってきたの。洗面台の引き出しに入れてあるから……」

晃司さんは返事もせず、乱暴に引き出しを開ける。私はもう一度、ごめんねと呟きながらキッチンに戻った。

 

結婚12年目、すべての夫婦がこんなふうだとは思わない。既婚者はたいてい、自分の結婚生活について人前では露悪的なことを言うが、きちんと機能している夫婦は存外多いものだ。

自分の幸運について、まともな大人は決して語りすぎることはない。

それでも私のような人間には、すぐに判別することができる。そのひとの夫婦関係が順調か、破綻しているのか。とくに女の目は雄弁だ。夫に情愛がない妻の目は、驚くほどに冷えている。憎んでいるうちは、まだいい。反転して、仲が良くなることだってあるだろう。しかし目が笑わなくなり、言葉少なに「旦那? ああ、元気よ」などと言う場合は要注意。

無関心の取返しのつかなさを、私は身をもって、知っている。

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ありふれた日常に潜む、怖い秘密。そうっと覗いてみましょう……
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