戸田恵子、40年前からの“推し”が演じたブロードウェイ・ミュージカルを自ら演じる奇跡

リスペクトで観ていたブロードウェイ女優の役を、自分が演じられるという驚き

エリザベス・アーデンとヘレナ・ルビンスタイン。美容好きなあなたなら、このふたりの女性の名を冠した化粧品ブランドがすぐに思い浮かぶはず。2017年にブロードウェイで幕を開けたミュージカル“WAR PAINT”は、20世紀前半の化粧業界に革命をもたらしたふたりの女性の長年に渡るライバル関係、苦悩、人生に焦点を当てた作品です。

ブロードウェイでは大女優のクリスティン・エバーソールとパティ・ルポーンが主演を務め、ともにトニー賞主演女優賞ノミネートという快挙を達成しています。そんな話題となった作品が、日本初演版『エリザベス・アーデン vs. ヘレナ・ルビンスタイン -WAR PAINT-』として上演されることに。戸田さんは今回、その主演のひとり、ヘレナ・ルビンスタイン役を演じられます。

――戸田さんはこの作品のブロードウェイ初演版を現地でご覧になったことがあるとか。ヘレナ・ルビンスタインを演じているパティ・ルポーンという役者さんのことが大好きだと伺いました。

戸田恵子さん(以下、戸田)：好き！ というより、もう“リスペクト”というくらいの女優さんです。私がブロードウェイに行くようになって40年近くになりますが、初めて行ったときからすでにオンブロードウェイで活躍されていたんです。ニューヨークに行ったタイミングで彼女が舞台に出ていたら、必ず観ていました。“推し”でもありますが、やっぱりリスペクトですね。本当に素晴らしいの。

だから、私が同じヘレナ・ルビンスタインを演じるという奇跡的なことが起こるなんて……。ちょっと畏れ多いというか、分不相応というか、おこがましいというか……(苦笑)。雲の上の人だと思って観ていたので、そんな気持ちでいっぱいです。

少女のようにキラキラした表情で嬉しそうに話してくださった戸田さん。「驚きが強くて、オファーを受けてもいいものだろうかと思った」と続けてくれました。

戸田：でも、二度とこんなチャンスはないんじゃないかと思い、チャレンジという気持ち。皆さんはそう聞いても「ふーん」という感じかもしれませんが、私の中では相当ビックリなんですよ。この作品ももちろんパティが出ていたので何年か前にブロードウェイで観ていますし、「ああ、あの作品をやるんだな」って。

――この作品についてはどんなイメージをお持ちですか？

戸田：まず、女性ふたりがメインのストーリーというのが珍しいですね。大抵は男女が主役の恋物語とか、しかも男性がメインの作品が圧倒的に多いですから。そんな中で、女性が主役、しかも誰もが知っている化粧品ブランドの話で、かつ、今みたいに女性が当たり前に活躍していたわけではない時代の話。

ふたりの女性が創始者としてのし上がっていく物語でもあり、堕ちていく物語でもあります。ライバルとしても描かれていて、なおかつコスメティックを扱っているので、舞台がとにかく美しかった。美容部員役の方なんかもいて、女性がいっぱい出てくるというのもあり、本当に観ていて楽しい舞台なんです。

――この作品は今回初めて日本で上演されるそうですね。

戸田：私自身、ブロードウェイで上演されていた作品を日本で初演するという機会は過去にも何回か経験していて、初演で私が演じた役をそのあといろんな女優さんが演じていらっしゃったりします。今回の作品も、私たちが初演をやったら、何年後かに違う女優さんがおやりになることもあるはず。そういった作品になっていけばいいなと思います。

――そうやって“ミュージカル”や“作品”が根付いていくと素敵ですね。

戸田：そうですね。たとえばシェイクスピアの作品は、永久に再演し続けられていますよね。『リチャード三世』『真夏の夜の夢』『ロミオとジュリエット』……。ブロードウェイの作品でも『ラ・マンチャの男』などの有名な作品は松本幸四郎(当時)さんや草笛光子さんが初演をやった時代があり、今も再演が続いているのですから、この作品もそうなってほしい。それはとてもいいことだと思います。