息の詰まる行動規制を受け入れてでも、日本ツアーを実現

経営母体を持たない世界最高峰の楽団が「奇跡の来日公演」で死守したもの【ウィーン・フィル】_img0
写真:Shutterstock

まずはオーストリア国内の公演許可を得たウィーン・フィルが次に目指したのが、海外公演の実現でした。日本では厳しい入国規制が敷かれていたため、2020年の来日公演は難しいだろうという見方が大半だったようですが、同年11月4日には、「加藤勝信官房長官(当時)が記者会見でウィーン・フィルの来日を特例として認めたことを明らかにした」のです。

 

この頃、日本では翌年の東京オリンピックに備えて外国人の入国が検討されはじめており、さらにオーストリアと日本の間において、次のようなやりとりがあったといいます。
 

オーストリア・クルツ首相から菅義偉前首相宛に親書が届いたのだ。国家レベルの交渉で見通しが立った後に、念押しで直接首相宛に親書を入れたのである。これが決定打となって国内外への発表が準備されている。実は10月初旬にはすでに全日空によるチャーター便の手配がされており、ホテル滞在時の感染予防策、新幹線移動におけるJRとの連携も整えられていたという。官房長官による記者会見はインパクトが大きく、また国をあげてのイベントという印象も与えた。二国間の政治案件として来日が実現したのである。
――『ウィーン・フィルの哲学〜至高の楽団はなぜ経営母体を持たないのか』より
 


ウィーン・フィルを乗せた特別チャーター機は、2020年11月4日に福岡空港に到着。全員のPCR検査を行い、無事に全員の入国許可が下りました。なお、当時入国した際には14日間の隔離期間を設ける必要がありましたが、ウィーン・フィルに実施したのは翌年の東京オリンピックでも採用された「バブル方式」だったといいます。
 

このバブル方式の採用により、福岡空港を出た後、彼らはごく限られた日本のスタッフ以外との接触を禁止され、10日間の日本滞在の中で、ホテルの自室と演奏するホール以外の出入りを許可されなかった。「バブル」の中から出ずに演奏を行ない、そのまま帰国するという方針である。これほど息の詰まる行動規制を受け入れても、ウィーン・フィルは日本ツアー実現を選んだ。
――『ウィーン・フィルの哲学〜至高の楽団はなぜ経営母体を持たないのか』より