忘れられない誕生日

20代から認知症の母を“背負ってきた”娘が断言する「介護してきて、本当によかった」_img2
 

2015年に本を出させていただいた頃から、介護についての取材を受ける機会も増え、仕事もアナウンサー業から介護についての講演・相談などに少しずつウェイトが移っていきました。

 

そんな2016年の9月27日の誕生日は、私にとっての大切な日になるはずでした。33歳の誕生日だっただけではなく、働き方も変わったタイミングだったからです。友人たちがケーキを頼んでくれ、当日にはTVの取材も入る予定でした。

しかしその日の朝5時、母が室内で転倒し、大腿骨を折ってしまったんです。

それまでも、母が転ぶことはありました。ときどき起こるてんかんの発作が原因です。発作前にはどうも予兆があるようでそわそわと歩き回るのですが、そこに発作が起こるので、意識を失って倒れてしまうわけです。手をつくことができないので、かなり危険。

その日の転倒は少し様子が違いました。転倒直後から腹部を押さえて痛みを訴え、立ち上がろうとするのですが、動けない。これは……と思い救急車を呼ぶと、案の定、大腿骨頸部を骨折していました。もちろん、誕生日の予定はすべてキャンセルです。

骨頭を人工のものに置き換える手術はうまくいきました。もともと陽気な母は、ストレッチャーで手術室に運ばれるときも童謡を歌っているくらいご機嫌でした。もっとも、入院をしている自覚はなかったと思いますが。

問題はその後です。リハビリがうまくいかず、自力歩行が難しくなってしまったのですが、母は歩行器や杖を使えませんでした。使い方がわからないのです。

したがって、エレベーターがなく、3階まで階段を上がらなければいけない当時の家には帰れないことになってしまったんです。選択肢は、エレベーターのあるマンションに引っ越すか、介護老人保健施設や特別養護老人ホームに入所するしかありません。

私は迷いましたが、バリアフリーのマンションを探し、引っ越すほうを選びました。空き家が少ない10月に引っ越したので物件数が少なく、家賃も上がることは痛かったですが、母と離れるよりずっとマシです。