『還魂』以来、久々にハマって観ていた、Netflixの韓流ドラマ『私の解放日誌』。これも『還魂』同様、敬愛する作詞家の松本隆さん推薦ということで見始めたのですが、梅雨時のスッキリしない天気のように、気持ちがどんより、曇り空モードのときにおすすめの作品です。
ソウルまで電車で1時間半かけて通勤する、田舎でくすぶっているイケてない3人兄妹たちの物語。その“ルーザー感”が妙に心地よくて。ヒロインのミジョンが言う、「みんなは雷が鳴ると怖がるけど、私は何故か落ち着くんです。『やっとこの世が終わる。待ち望んでいた』と。ここから抜け出す方法がわからないから、すべてが終わるのを待ち望んでる。不幸ではないけど、幸せでもない。だから終わっても構わない」という感覚、とてもよくわかる気がします。
楽しいこともそれなりにあるし、死にたいほど耐えられないことがあるわけでもない。だけど毎日、朝が来るから仕方なく、生きるために身体を何とか動かして、社会に適応する努力をしているだけ。—そんなふうに感じながら生きている人って、結構多いのではないのでしょうか。そんな日常の静かな絶望感と閉塞感を的確な言葉で紡いだのは、『マイ・ディア・ミスター』などでも知られる脚本家のパク・へヨン。毎回深い人生哲学のような名台詞が飛び出し、私は刺さり過ぎて涙。
「私は満たされたことがない。今まで出会った人間はクズばかり。だから私をあがめて満たして」
「疲れたわ。あらゆる人間関係が労働のよう。目覚めてからすべての瞬間が労働のよう。何も起こらないし誰も愛してくれない」
「魂が無理だと悟っているからだ。ためらって発した言葉は間違いなく後悔する。言うべきじゃないとわかっているのに言わずにいられないから失敗するんだ」
―などなど、まるで戯曲のようなセリフが繰り出され、映像作品なのに、なぜか小説を読んだあとのような気持ちになるのが不思議。さすが、言葉の魔術師、松本隆先生がお好きだというだけあって、言葉選びが繊細なのです。そして内容的には重いのに、毎回必ずくすっと笑ってしまうシーンがあって、そのメリハリ感も絶妙!
全体的に暗いトーンで淡々と描かれるドラマなので、正直、好き嫌いは分かれるかもしれません。だけど村上春樹さんの小説の絶望感や、脚本家の坂元裕二さんの作品が好みという方には、きっと刺さるはず。少なくとも私には、毎日これを観るのが楽しみで、だけど観終わってしまったら楽しみがなくなっちゃうからどうしよう! と葛藤するくらいにハマった作品でした。
3兄弟の末っ子ミジュンを演じるキム・ジウォンの美貌と、ミジュンたちの住む実家で働く謎の無口男、ク氏役のソン・ソックの飄々としたイケメンぶりも目の保養に。劇中では、それぞれのキャラクターたちが、今まであきらめて生きていた人生の中で、自分の魂を「解放」していきます。そのさまに、観ているこちらの心も少しずつ癒されていくような。あ、ただ、最後の終わり方に関しては、賛否両論ありそうですが……!
最近少し疲れているかも。―そんな気持ちに寄り添ってくれるような、優しいドラマです。
前回記事「ティナ・ターナー、40代で劇的カムバックを果たした歌姫の壮絶な半生」はこちら>>
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