私達が見てる大半の出来事は、その一場面だけ

 

ーー娘たちへの眼差しも話し方も優しいですし、出かけるときはお金をちゃんと渡していました。有希なりの責任感と愛情を感じました。

そう思います。でも、有希は娘たちにハグとかをしないんですよね。「行ってくるね」と言うときに、“頭ポンポン”ぐらいはあったと思うんですけど。肉体的なスキンシップって、昔からされてきていないとできないと思うんです。もしかしたら、有希は子どもの頃に親から愛情を与えられなかった人かもしれないとか、なるべく自分が理解できる範囲で、彼女がこうなってしまった理由みたいなものはいくつか考えました。脚本に彼女のバックボーンは書かれていないので。

 

ーーそういえば、有希が河原で娘たちと話すとき、立ったままでした。大人は子どもと話すとき、親じゃなくても、目線を合わせるためにしゃがむ人が多い気がします。

そうです。そういうところで表現できたらいいなと思いました。

ーー有希は母親としては失格なんですけど、私は彼女にも幸せになってほしいと思いました。

そうなんですよね。彼女が全部悪いわけじゃないですし。

ーー社会の構造に問題がありますよね。有希のやったことはもちろん許されないけれど、中卒でシングルマザーの彼女が一度どん底の生活に落ちてしまったら、自力で這い上がるのはほぼ奇跡というのが現実で。だから恋愛や男性に希望を見出してしまうのは責められない。そんな事情や、彼女なりの正義をちょっとだけ想像してあげることが、門脇さんがコメントした「優しい世の中になったらいいなと思いました」ということだと思うんです。それは、「理解が困難」と言いながらも、有希を理解しようとする門脇さんのアプローチにも重なりますし。

コメントが素晴らしすぎる! それ、全部書いてください! 実は、この作品の取材が本当に難しくて、役についても答えづらかったんですけど、いまのが正解です! いやー、さすがすぎます!(笑)。

ーーいやいやそんな(笑)。ちなみに、難しいと感じたのはなぜですか?

“いい人”“悪い人”で片付けられない役柄ですし、このお話自体も「すごく感動する映画です!」とは言いづらい。「メッセージは何ですか?」と言われても、一言ではとても言えなくて。でも、そういう映画なんですよね。ある部分だけを切り取って「こういう人だ」とカテゴライズしたり、良し悪しをジャッジしたりしがちだけど、私達が見てる大半の出来事というのはその一場面だけなんだよと。そういうことが、見ている方に伝わればいいのかなと思います。

 

ーー娯楽作品じゃないからといって、メッセージ主義、テーマ主義になっちゃうと面白くないですし、堅苦しいですしね。

監督も多分そういうことがしたいわけじゃないと思うんですよね。監督の眼差しが、全ての登場人物に対してすごく温かかったんです。この姉妹に対しても、岩切に対しても、有希に対しても。最後に有希が映るあるカットを入れたのも、監督のキャラクターへの優しさだと思います。