飲食店の「内偵調査」を夜にしようと思うと目立ってしまうからです。前にも書きましたがこっそり調査したつもりでいても、いざ臨場すると、お店の人から、

「この前、四人で来られてましたよね」
と言われたりするのです。

その点、ランチタイムであれば、男性であろうが、女性であろうが、一人でふらっと店に入って、携帯電話をいじりながら食べてもまったく怪しまれることがありません。

ちなみに、この携帯電話、私の場合は、写真を撮ったり、メモ代わりに使ったりと、なくてはならないものでした。

人によって流儀が違うかもしれませんが、調査官が店に入れば、たいていの場合、座る場所は決まっています。お金の出し入れが観察できる場所、つまりレジが見える席です。

ただし、レジが出入り口付近にあって、客席からは見えないような構造になっている場合は、仕方がないので、できるだけ全体が見渡せる席から、店内の様子を観察します。レジの打ち方などは、お金を払うときにチェックするのです。

「ランチタイムでも国税調査官は見ていた」元国税調査官が語る飲食店での驚きエピソード_img0
 

レジについては、まわりに何を置いているのか、できれば遠目でもいいので確認しておきます。釣銭を置いている場所、通帳を入れて持って歩いているであろうポーチ。毎日の「真実の」売上が書いてあると思しき大学ノート⋯⋯。レジのまわりには、調査の際に「端緒」となるものがたくさんあるのです。

たまにレジのない店もありますが、こういう店については、「レジがない」という事実だけでも資料のネタになります。

 

携帯電話がない時代は、内偵調査に行って知りえた情報をメモするのも一苦労でした。今は街中であろうがレストランであろうが写真を撮ってもなんら怪しまれることはありません。

飲食店経営の皆様、「お一人様」が必死に撮影してメモもしていたとしたら、それはグルメ雑誌の記者ではなく調査官かもしれません。後日、テレビの取材ではなく招かざる客が来ることになるかもしれないので、ぬか喜びは厳禁と言えるでしょう。