フキノトウを扱う母の手。

母と一緒に通う鎌倉の日本料理店「田茂戸」のお品書きに「変わりアジフライ」とありました。何が変わっているのだろうと思ったら、パン粉の代わりに薄い食パンで鯵が包んで揚げてありました。薄い食パンをさらに棒で伸ばしたものと思われます。パン粉のアジフライより軽い印象。卵を潜らせていないせいか、サクサク感が強いです。何より、そのアイデアがおもしろい。大将にどうしてこんなことを思いつくのか聞いてみたら、最初は春巻きでやってみようと考え、あれこれ試行錯誤して「パンで巻く」に行き着いたそう。

 

母はひとしきり感心した後、「うちでもやってみない?」といい出しました。彼女はおいしいもの、新しいもの、めずらしいものに出会うと自分で試してみなければ気が済まないたちなのです。かつては自分であれこれ試しておりましたが、最近は私を手足のように使います。店主の田中さんいわく「卵や粉を使わない分、やりやすいかもしれません」。

早速、馴染みの魚屋さんに電話をして、鯵をフライ用に開いてもらいました。本来はたたき用の小ぶりな鯵とのこと。パンを巻きやすそうです。8枚切りの食パンを一枚ずつビニール袋に入れ、すりこぎ棒で薄〜く伸ばします。食パンの耳はキッチンバサミで切り、パンで鯵を包んで端っこを爪楊枝で止め、準備万端。うちは基本はガスコンロですが、最近、揚げ物は卓上の IHクッキングヒーターを使っております。油の温度を管理しやすいので。160度にセットして、温度が達したらそうっとパンに包まれた鯵を沈めました。待つこと5分。パンがこんがりとキツネ色になったのはいいとして、薄く伸ばしたはずのパンが油を吸って、随分と厚めになっているではありませんか。揚げたサンドウィッチみたいなものが出来上がりました。まあね、揚げたてですから、そこそこおいしい。いや、サクサク感はかなりいい。何もつけずに食べてもウスターソースをつけても、けっこういけます。しかし、母は「田茂戸のとは全然違うじゃない。これならパン粉で食べたかったって思っちゃうわね。田中さんにちゃんとコツを聞いたの?」ですと。

家で作ったアジフライ。

田中さんに改めてコツを尋ねてみたところ、パンは12枚切りを使うそうで、揚げる前に薄力粉を打つのもポイントとのこと。そう聞いてしまうといてもたってもいられなくなり、早速。12枚切りのパンを買いに行き、再度挑戦してみました。教えてもらった通り、パンの上から粉を打ち(振るというより、打つといった方が上級者っぽい!)、150度で5分、いったん引き上げてから190度で30秒。ちなみに油は米油を使いました。サクサクカリッと仕上がり、たっぷりのキャベツとノンアルコールビールで完食。手順を一度覚えてしまえば、パン粉を使うより簡単で失敗も少ないと思われます。

アジフライを並べて食卓。今年初のとうもろこしご飯と湯葉のおみおつけと一緒に。

こんなふうに、母も私も食べること、料理することに妥協しません。

二十代からずっと実家と自分用の部屋を行ったり来たりしておりましたが、十年前に父が亡くなってから完全に実家に戻りまして、以来母と二人暮らしです。母と娘という女同士、遠慮がないので派手な大喧嘩も度々で、母にとっては刺激的なイベントと受け止めている模様。こちらはその度に心がくたくたになるのですが。

 
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