ランチ価格が一律で、釣銭を積んでいる店は危ない?
フロアー担当が料理を運んできて、テーブルに伝票を置いて去っていったら、今度は伝票に注目します。
その日の日付がきちんと書かれているか、時間が入っているか、一連番号がついているか、注文したものの金額が記入されているかなどをチェックします。
テーブル伝票は飲食店の調査の場合、最も重要な原始記録です。
税務調査に際しては、日付なし、一連番号なし、注文したものの金額の記載もないテーブル伝票を使っているとわかった場合、それは信ぴょう性が低いと判断されます。
実際の調査では、売上伝票などの原始記録の保存がない場合は、仕入金額を調べ、粗利益で割り戻し、売上金額を算出し、その金額をもって修正申告を慫慂(しょうよう)することもあるので、伝票を保存することと、伝票に詳細を記載することはとても重要なのです。
ちなみに慫慂というのは、調査対象者である経営者に修正申告書を提出するように税務署側が勧めることを言います。
運ばれた食事を口にしながらも、調査官はいろいろな計算をします。
トイレに行った際にチェックしたテーブルと椅子の数から、ちょっとした掛け算をします。
4人掛けテーブル席が5つ、2人掛けテーブル席が4つ、カウンター席が4つ、合計32席。一人の滞在時間を平均30分とすると、ランチ営業は11時30分〜13時で3回転。メニューから売れ筋の定食は800円なので、その店のランチ売上はマックスで7万6800円かな⋯⋯。
このように、おおよその売上を推測するのです。
忙しいオフィス街では、ランチのメニューや価格を一律にして、レジを打たず、レジのまわりに釣銭を積んでいるようなお店を見かけることもあります。
調査官がこのような店を見つけると「ぜひとも調査に行ってみたい!」と思います。
このやり方をしていると、不正を働くつもりがないのに、売上が合わないことが多くなるからです。レジを使わず、きちんと管理をしていないというだけではなくて、ひょっとして、アルバイトが、ポケットに千円札を忍ばせたまま家に帰ってしまう、というようなことが起こるかもしれません。
一度成功したアルバイトが、味をしめて何日かに一回は売上金をくすねるようになったとしたら、その経営者は売上管理がずさんなだけでなく、窃盗犯を生み出すきっかけを作ってしまうことにもなりかねません。
飲食店に限らず、現金商売の場合は、売上管理は何より大切なのです。調査官は日々、そんなことを考えながらランチタイムを過ごしています。
著:飯田 真弓(いいだ・まゆみ)
元国税調査官・税理士。産業カウンセラー・健康経営アドバイザー。高卒女子初の国家公務員(税務職)として採用され、現場一筋26年、7つの税務署でのべ700件に及ぶ税務調査に従事。2008年、「誰もが活き活きと自分らしい人生を送れる社会を創造したい」という志のもとに退職。現在は、「おかん税理士」として、法人会、納税協会、税理士会、商工会議所などで講演やセミナーを実施。また産業カウンセラーとしては、企業を対象に、個別カウンセリングほか研修なども実施、働きやすい会社の実現に尽力している。日本芸術療法学会正会員。一般社団法人日本マインドヘルス協会代表理事。
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写真:Shutterstock
構成/大槻由実子
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