「履かせてもらっている下駄がある」ことを自覚する大切さ
藤田 そして、全ての人が持っている人権を教えるだけでなく、「特権」についても教えることがあるそうです。植民地主義についての教育の中で、ヨーロッパが途上国に比べてどれだけ特権を得てきたか、 ということや、過ちも犯したことも教えると。大きな枠で考えたら、自分たちは恵まれていて、特権を得てきたっていうことを教える、気づかせる機会があるというのは、とても大切なことではないでしょうか。
――「特権」と「人権教育」がセットというか、どちらも合わせて教えているというのは驚きです。私もずっと、特権を自覚する必要性について本などでも書いているんですけど、特権っていうものを意識しないと、「自分が持っているものを持っていない人」の存在を忘れてしまうんですよね。
藤田 そうなんです。いつも私は学生に「あなたたち、ここで勉強できているのは特権なんだよ」と言っています。生まれた時から履かせてもらっている下駄がある、ということを忘れちゃいけないよって。私だって、下駄を履かせてもらってきたから今ここにいるわけですよ。生まれた時から下駄を履かせてもらっていること自体は悪いことじゃないと思うんですけど、それを自覚せずに、あぐらをかいたらだめだよと。それをどう活かして世の中に還元していけるかを考えて進路を決めてね、と言っています。
とにかく「当事者」の声を伝えるイギリスのメディア
――人権に関することで、他にも日本とイギリスで違うところってありますか?
藤田 イギリスでテレビを見ていると、日本だったら“ないもの”にされるような人たちを前面に出してくるんですよ。例えば、コロナが蔓延してロックダウンになってすぐに、食べ物に困っている人の実情が報道されました。
去年からは、ウクライナ情勢で燃料費が高騰する中で、「Heating or Eating(暖房するか、食べるか)」という言葉が盛んに使われました。極寒のイギリスで、光熱費にお金を使うか、食べ物にお金を使うかというところまで人々が究極に追い込まれたんです。それが連日ニュースになるのですが、ほとんどの番組は当事者をスタジオに呼ぶんです。当事者は顔も名前も出して「こんなに困ってるんだ」っていうことを言うし、メディアもとにかく当事者の声を伝える。
そういう姿勢が日本ではあまりない気がして。テレビ局内でプロデューサーが上司から「弱者ネタはやめろ」と言われることもあるらしいですし、当事者の方も顔を出したがらないですよね。首から下しか映さないとか、モザイクが入るとか、声を変えるとか。イギリスのニュース番組では、さらに当事者の痛みを伝えるだけでなく、その問題に関係する省庁の人間も番組に呼ぶんです。与党も野党もどちらの政治家も連れてきて、キャスターがそれぞれに対して反対の立場から問い詰めて、説明責任を問う、ということをテレビで連日やっています。
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