いつかまた、会える
「あの日」から1年後。私はかつてのクラスメートに囲まれて、司法試験合格を祝ってもらっていた。
「徹子さん、合格おめでとう!! 4回目、30歳で合格、ばんざーい!」
久しぶりに学校の近くの居酒屋に集合してくれた仲間たち。8人のゼミで、私が最後の合格者になった。
「あ、ありがとうみんな……。最年長だったのに、お待たせしました」
すでに弁護士として活躍している仲間もいる。すっかり忘れられていると思っていたのに、合格発表の1週間後、祝賀会のLINEくれて、こうして会うことができた。
「そういえば去年、徹子さんが危うく電車の脱線事故に巻き込まれそうになった、って聞いたよ。去年といい今年といい、いいことばっかりだね。この調子で4大事務所とかに就職決まっちゃったりして!」
ストレートで弁護士になったエースのともちゃんが、にこにこビールを注ぎながらそんなことを言う。
……そう、今でも、あの電車に乗っていたらどうなっていたのかと考えることがある。
今からちょうど1年前、私が乗らなかった電車は、急行の次の停車駅に向かう途中で事故を起こした。幸い先頭付近には乗客がおらず、運転手さんは大怪我をしてしまったが、奇跡的に死者は出なかった。
ただし、1両目の破損はひどく、わたしがあのまま乗っていたら……最悪の事態もあり得た。
つまりあのおばあちゃんは、私の命の恩人。でも、どんなにあの駅で探しても、もう2度と会うことはできなかった。
あのおばあちゃんは、誰だったのだろう?
確かめる術はない。
でも、誰であろうと……あれが私の亡くなったおばあちゃんかもしれないと思うだけで、心のどこかに、明るい蝋燭がともる。
ひとりぼっちだと思っていたけれど、誰かが私を見守っていてくれるのかもしれない。見えない力に守られているのかもしれない。そう思うだけで、心がしゃんとする。
おばあちゃんの言葉も気配も、私の人生を、この先もずっと支えるだろう。
生きてるだけで、もうけもの。
私は心のなかで、幾度となくその言葉を唱えて、東京で今日も元気に生きている。
同時に二人の女を愛してしまった男。一人は妻、もう一人は……?
構成/山本理沙
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