平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。
そっと耳を傾けてみましょう……。

 

第29話 執行猶予

 

「瑠香、ごめんね、今週の金曜日はクライアントに同行でさ。翌日はそのまま接待ゴルフなんだって。土曜夜には家に帰るからね」

「ええ~、そうなの? 淋しいなあ。土曜一人ぼっちになっちゃうじゃない、何しよう? もっと早く言ってよう」

ごめんごめん、と僕は腕の中にすっぽりと入る小柄な瑠香の体を抱きしめた。

結婚して10年。僕が投資銀行で働いていた頃、インターンでやってきた彼女はまだ大学生。卒業と同時に結婚したからまだ32歳で、僕とは10歳離れている。

瑠香は働いたことがなく子どももいないせいか、歳よりも幼いところがあり、僕の出張を本気で悲しがるピュアなところも可愛い。

5年前にコンサルタントとして独立した僕は、青山の自宅のそばに部屋を借りてそちらをオフィスにしている。瑠香はランチタイムになると、手作りのお弁当を持って一緒に食べようとやってくるほど僕にぞっこんなのだ。

「その分来週は箱根でもいこう? ほら、機嫌なおして。今日はクライアントとも会議ないし、ブランチでも食べにいこう」

もー、と膨れながらも、スルリと腕を抜け、シャワーを浴びに行く瑠香の後ろ姿からは、もう怒りは感じられない。

――これで一安心。

僕はほっと胸をなでおろしながら、鼻歌まじりにコーヒーを淹れにいく。

罪悪感が、ちくりと胸を刺した。
 

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夏の夜、怖いシーンを覗いてみましょう…。
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