更年期はホルモンの不安定さと複雑な人間関係が絡み合う時期

「家族」との人間関係が更年期うつを引き起こす。多くの役割を求められる更年期の乗り越え方【高尾美穂先生】_img0
 

「更年期うつというのは、女性ホルモンが減少することで起きる更年期の不調のひとつです。女性ホルモンのひとつであるエストロゲンには抗うつ作用、プロゲステロンには抗不安作用があります。

心の安定を担ってくれていた女性ホルモンの分泌が不安定になることによって、自律神経の調整がうまくいかなくなることがあります。副交感神経が優位になりにくく、良質な睡眠がとれなかったり、緊張状態が続いたりすることでうつ状態にもなりやすい環境です。

このように、女性ホルモンの減少によってメンタルダウンしやすくなることは理論上わかっていますが、当事者である女性の話を聞いていると、やはり人間関係にストレスを抱えている人がすごく多いのです。この世代の女性は家庭でも仕事でも求められている役割がとにかくたくさんあって、更年期の不調はホルモンの問題だけでなく環境的要因が大きく関わっていると言えます。

更年期世代の女性は、職場で管理職に就いている人も多い年代かと思いますが、職場での人間関係というよりも、もっと近しい人、すなわち家族との人間関係に悩みを抱えている人がとても多い印象です。

 


①子どもとの関係
今は自身の更年期とお子さんの第二次性徴期が重なるという方も多いのですが、お子さんの心も身体も大きく変化するし、個人としての考え方も確立してくるような時期なので、コミュニケーションに悩まれる方が多いです。

会社では管理職についてバリバリ仕事をしているような方でも、『子どもから信頼されていない。けれど、何がきっかけでこのような関係になったのか想像できない』と、悩みを抱えていることがあります。

また、ちょうど受験の時期にも重なることも負担になっています。今のお受験はそれだけでもうひとつの仕事として捉えないといけないくらいパワーを使いますよね。子どもの将来に関わることだから真剣になるし、祖父母世代からのプレッシャーを感じている人もいます。


②パートナーとの関係
パートナーも同じく仕事で責任ある役職に就いたり、年齢を重ねて体調を崩しやすくなったりします。この場合、夫婦の関係性が良いほど相手のことを思って悩みが深くなりますよね。また、パートナーの不倫やセックスレス、夫が自分を女性として見てくれないといったことなども、心にぽっかり穴が開いたような喪失体験になります。


③両親、義両親との関係
最後に、両親や義両親との関係性ですね。これまでいい関係を続けてきた場合でも、実際に介護や老後の面倒を見ることは、また別のストレスがかかってくるでしょう。親御さんの年齢によっては死別を経験することで、大きな喪失感を抱える人もいるかもしれません。


もちろん男性は同じことで悩まないのかと言えば、そうではないかもしれませんが、やはり今もまだ男性のほうが活躍の場が外に開かれている社会です。女性のほうが家庭の状態を背負う傾向にあるため、職場よりもさらに近しい人間関係の方が大きな悩みになっていると感じます。

近しい人との関係に問題を抱えながら健やかに過ごすというのは難しいと思います。実際に、これまでメンタルに問題がなかった人でも、さまざまな環境要因が重なることで更年期にうつになってしまう可能性はあるのです」