恋が実らなかったショックで、モテ男から仙人へ
稀代のモテ男・リストが年貢の納めどきだと思ったのは、36歳のとき。演奏旅行先で出会った、カロリーネ・ツー・ザイン=ヴィトゲンシュタイン侯爵夫人がそのお相手です。名前こそ「マリー」でないですが、人妻という点で相変わらず感が。でも、リストも今回ばかりは本気だったようです。
二人は同棲を始めましたが、カトリック教徒には離婚が認められていなかったため、カロリーネはカトリックの総本山であるローマへ行き、教皇へ直訴までしたのだとか。リストも根気強く待ち続け、なんと15年もかかって離婚(正確にはカロリーネの結婚の無効)が成立したといいます。ですが、これでめでたしとはいかず、結婚式直前に前夫の横ヤリが入って、二人は結婚できずしまいだったとか。
「これにはリストはしょんぼりして、もう仏門に、いやキリスト教の聖職者となり、カロリーネとも別れて作曲活動に専念する仙人のようになったのである。超絶なモテ期を堪能し、才能のある女性たちに囲まれたリストがここにきて、もうその恋愛遍歴ステージから降りてしまうのであった」というから、なんとも意外なモテ男の結末です。
とはいえ、数々の恋を繰り広げるのと並行して、リストは素晴らしい楽曲を精力的に作りました。「ピアノの名曲を生み出したたけでなく、交響曲などオーケストラの楽曲も残した。さらに、情熱的で力強い演奏技巧がピアノそのものの耐久性や表現力の評価にも影響した。こうしてリストは、あれこれプライベートのお忙しさにかまけることなく、クラシック音楽の世界に多大な貢献をしたのである」と、渋谷さんはそっと付け加えます。
リストの光と影。そして彼を創作に駆り立てた強い女性たち。渋谷さんがすすめるリストのもう一つの曲は「ピアノ協奏曲第1番変ホ長調」。ぜひ、その人生に思いを馳せてみてください。
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