「嘘みたいな話、嘘みたいな現実がいっぱいあった」


と、ここまで佐野さんが手がけた作品愛を語ってしまいましたが、セッションでは筆者が日頃からメディア業界について考えていることがたくさん語られ、共感が多い内容に。セッション冒頭では、佐野さんの口から『エルピス』の企画の裏側について触れるシーンがありました。

『エルピス』の大大大ファンとしては大興奮! なんですが、佐野さんは『エルピス』について、「ヒットしたかと言われると、視聴率的には全然ヒットしていない。でも頑張って作ったドラマ」だと語りました。

「第60回ギャラクシー賞」(放送批評懇談会主催)のテレビ部門で大賞を受賞し、放送されるたびに濃密な感想がたくさん寄せられ、とにかく話題になり続けた本作でしたが、プロデュースしたご本人は「ヒットしたわけではない」という認識なのが驚きでした。

「とても見切れる量じゃない」コンテンツが溢れている。『エルピス』佐野亜裕美さんの言葉から考えた、「量産と質」へのジレンマ_img0
 

本作の特徴のひとつは、「冤罪(えんざい)」をテーマに扱っていることです。主人公たちが、政治家の血縁者の身代わりに殺人犯に仕立て上げられた死刑囚の冤罪を晴らすために奔走する中で、警察のずさんな捜査や事実ではないことをさも事実かのように報じるメディアの闇が浮き彫りになっていきます。

 

権力に忖度する報道機関の人間模様があまりにリアルで、フィクションでありながら、今の社会への強烈な問題提起になっていました。あまり取り上げられることのない「冤罪」というテーマを扱ったきっかけとして、松本潤さん主演のドラマ『99.9 刑事専門弁護士』(TBS)を挙げていました。この作品をプロデュースをした際、冤罪事件についてのルポの本を読む中で、「何でこんなことで冤罪になるんだろうとか、嘘みたいな話、嘘みたいな現実がいっぱいあった」そうで、興味を持ったと言います。