もしかしたら、目の前の人も酷く傷つき、トラウマを持っているかもしれない


ーー以前インタビューで「人々が抱える生きづらさや傷つきやすさの背景に心的外傷(トラウマ)があるかもしれないと、みんなが考えるようになれば、きっと優しい社会になる」とおっしゃっていましたよね。確かにちょっと人間関係が築きにくい人を見た時に、“嫌な人”って思ってしまうんですけど、その人も何かしら被害を受けて、酷く傷ついて、自分でもどうしようもないけれど人を疑ったり責めてしまうのかもしれないという視点は必要ですよね。トラウマによって、ものの見方自体が変わるというのはすごく驚きですし、知られていないですよね。

「トラウマは体のメカニズムを変えてしまう」原因不明の身体症状は幼少期のトラウマが原因かもしれない?_img0
 

白川:以前から、よく「感情は金太郎飴」とお伝えしていたのですが、感情って時間を超えてひとつなんです。今のある感情は全て過去の感情と繋がっての感情なんですよね。人は、その感情を通して世界を体験しているんです。誰しもが、過去の体験によるさまざまな感情で満ちた<「私」の水槽>を通してしか、世界を見ていないといってよいでしょう。その水槽の内壁に映ってみえるものは人によって少しずつ違う。同じ物事でも、それぞれ人によって捉え方や見え方が違うのはそういうわけなんです。強度の強いトラウマ体験を受けると、強烈な感情で水槽が満たされますし、考えの体系である水槽の形までが歪んでしまうことがあり、極端に人や世界が怖く見えたりしてしまうんです。先にお話をした「トラウマインフォームドケア」は、トラウマ体験を聞きだそうとするものでも、トラウマ体験があると分かっている人にだけ「トラウマ治療」をしようとするものでもありません。すべての人にトラウマ体験の影響があるかもしれないということを念頭に置いてケアを行おうとする考え方なんです。PTSD診断ができた1980年から時間がたって、思ったより多くの人がトラウマ体験を持っていることがわかってきました。よく「トラウマの眼鏡」という、その人の問題行動の背景にトラウマがないかな?とみる眼鏡を使いましょうという比喩を使うのですが、それはみんなが「こころのケガ=トラウマの影響」をもっていることを前提として、お互い配慮をしあうためのレンズなんです。それをするためには、自分を俯瞰する必要がでてきますよね。

 

虐待は社会全体で予防していくべき


白川:世間で残酷な虐待死事件が相次いでいますが、若年妊婦・特定妊婦・ひとり親への子育て支援、地域での見守り、児童相談所への通報、児童相談所の中で緊急度のアセスメント、介入、そういったことが行われて、どこかで止めることが出来ていれば、誰かが誰かを傷つけたり、最終的には子どもが死んでしまうようなことは起きなかったと思うんです。だから私はどっちが悪い、DVをする人やDVされるお母さんが悪いとかいうことではなく、虐待する方もものすごく傷ついて、そういうふうに振る舞うしかなくなっていることに気づく必要があると思います。どこかの時点で、暴力の連鎖を止めることができたはずです。社会がトラウマのことを理解していたら、止めることができたはずの事件もあるはずです。どこの現場の人も、一般の人もトラウマについて知ってくれていたら、被害や傷つきを減らすことができるんです。先に医療のところでも説明しましたが、トラウマが存在するかもしれないという前提で、トラウマが当事者や支援者や周辺の人までに及ぼす影響について知識を持ち、対処する「トラウマインフォームドケア」というものがこの社会には必要です。

※8/28、一部本文を修正しています。
 

前回記事
「親は子どもにとっての世界の代表」―DVの目撃・親が怒鳴ることでも重大なトラウマになる>>
 


トラウマリカバリーカレッジあさがや第一回シンポジウム
「共同体のなかで傷ついてきた。なのになぜ、私たちは再び集うのか?」開催

2023年8月27日(日)13:00-17:00
オンライン開催(第2部後半を除いてアーカイブ配信あり 9/5-10/31)

■プログラム
第1部:援助者の視点から
「家族と国家は共謀する?」信田さよ子(原宿カウンセリングセンター顧問、日本公認心理師協会会長)
「回復過程における“場のチカラ”」大嶋栄子(特定非営利活動法人リカバリー代表)
「多重被害化(ポリヴィクティミゼーション)・共同体・トラウマインフォームドケア」 白川美也子 (トラウマリカバリーカレッジあさがや、 こころとからだ・光の花クリニック)

第2部:当事者の視点から
「トラウマリカバリーカレッジあさがやの試み」水谷みつる(トラウマリカバリーカレッジあさがや)
トラウマリカバリーカレッジあさがや「トラウマをめぐる対話と当事者研究の会」参加者
第3部:全体ディスカッション

■参加費
ライブ参加(アーカイブ付き):一般2500円、割引(経済的に厳しい方)2000円、応援付き3000円
アーカイブ視聴:一般2200円、割引(経済的に厳しい方)1700円、応援付き2700円

■申し込み&詳細:
ライブ参加(アーカイブ付き)
https://trc-1st-symposium-live.peatix.com
アーカイブ視聴
https://trc-1st-symposium-archive.peatix.com

※ライブ参加(アーカイブ付き)とアーカイブ視聴の違いについて
アーカイブ配信(9/5-10/31)には、第2部後半の「トラウマをめぐる対話と当事者研究の会」参加者の登壇部分が含まれません。
「トラウマをめぐる対話と当事者研究の会」参加者の登壇部分の詳細は、現在、準備のためのミーティングを開いて検討中ですが、サバイバー当事者が「トラウマサバイバーと共同体」というテーマに基づいて、それぞれの経験や考えを語ります。
当事者の生の声を聞く貴重な機会となります。お聞きになりたい方は、ライブ参加チケットをお選びください。もちろん、アーカイブ配信もご覧いただけます。

■キャンセルポリシー:主催者の都合によりシンポジウムが中止になった場合を除き、チケット購入後のキャンセルは承れません。

■ライブ参加、アーカイブ配信ともに、録音・録画・スクリーンショットを固くお断りいたします。

■主催:トラウマリカバリーカレッジあさがや

■協力:こころのケアとレジリエンス研究センター

■フライヤー制作/映像編集:八幡真弓(こころのケアとレジリエンス研究センター事務局、Praise the brave代表)

■お問い合わせ:trc.asagaya.info[at mark]gmail.com

※トラウマリカバリーカレッジあさがやとは
東京・阿佐ヶ谷に拠点を置く、トラウマに焦点を当てたリカバリーカレッジです。トラウマに関心をもつ多様な人々がともに学ぶ共同体の創出を目指して、2019年からオンラインおよびオフラインのプログラムを開催しています。

「トラウマは体のメカニズムを変えてしまう」原因不明の身体症状は幼少期のトラウマが原因かもしれない?_img1

 

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取材・文/ヒオカ
撮影/日下部真紀
 

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