人間の欲求から考える

【開成中学の特別授業】「加害者になるな」「他人事のように考えるな」ネットの誹謗中傷について、子どもたちに伝えたいこと	_img0
写真:Shutterstock

「三大欲求って知ってる?」
神田先生が唐突に聞く。

「食欲」
「睡眠欲」
すぐに生徒たちが答えたあと、「性欲」という声も上がり、少し笑いが起きた。まだ出てくる。
「物欲」
「支配欲」
「承認欲求」という言葉まで挙がった。

「食欲、睡眠欲、性欲は本能的な欲求、つまり一次的な欲求だ。そのほかの物欲とか支配欲、承認欲求は二次的欲求って言うの」

 

神田先生は生徒から出た欲求に関する言葉を整理しながら、
「ここで一つ聞きたいのだけど」と問いかけた。
「他者とのコミュニケーションをとりたい欲求は(一次的欲求、二次的欲求で分類すると)どのあたりになる? 一次的欲求なのか、二次的欲求なのか⋯⋯」

「全部に関わる」ある生徒が答えた。
「なるほどね。いろんな欲求にとって、コミュニケーションは大事だよな」
と神田先生はうなずきながら、
「例えば僕はこう考えてみました」とスクリーンに考えを映し出し、読み上げた。

「個体としては弱体な人間が生き残る戦略として、人間は他者と共同したから生き残った。だから、コミュニケーションは生き残りに大事。コミュニケーション欲求は、本能的欲求に近いものなんじゃないのか」

神田先生は欲求についてさらに深めていく。配ったのは一枚のプリント。最後列の私にも回ってきた。見ると、五段階に色分けされたピラミッド形の図が描かれている。スクリーンにも映し出された。米国の心理学者マズロー(1908〜1970)の「欲求五段階説」だ。

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マズローによれば、欲求は五段階からなる。ピラミッドの最下段は生命維持に関わる「生理的欲求」、そこから身の安全に関わる「安全の欲求」、他者と関わり集団への帰属を欲する「社会的欲求(帰属欲求)」、他者から認められ自己を認めたいという「承認欲求」と積み上がり、頂点は自分を成長させ自分らしく生きたいという「自己実現の欲求」だ。下段の欲求が実現するに従い、上段の欲求を人間は求めるようになるという。

「君たちはどこらへんまで満たされている?」と問う神田先生。

「三つ目(社会的欲求)ぐらいまではひとまず大丈夫なんじゃない?」
「承認欲求は満たされてないな」

生徒たちは口々に言いながら、自分に引きつけて考える。ここで神田先生が先ほど話題にした「コミュニケーション欲求」に話を戻した。

「コミュニケーションは常に、相手から誤解されたり、攻撃されたりするリスクもあるよね。でも、自分だけは安全な場所から安易にコミュニケーションがとれる方法があるとしたら?」

「あー!」
生徒たちがざわついた。