「学生時代の同級生たちがFacebookや年賀状などで、出産報告や子どもの成長をしているのを見ても、正直、子どもが可愛いって思えないんです。自分の時間を犠牲にしてまで、育児をしたいって気持ちにはなれません……」

近年、#選択的子なし、あるいは“チャイルドフリー”という言葉が浸透しつつあります。この言葉は、健康上では問題が無いにもかかわらず、自らの意思で子どもを産まない選択をした人や、子どもを持たない方が人生を豊かに過ごせると言う考えを持つ人たちを指します。

日本は女性の生涯無子率(50歳時点で子どもがいない人の割合)が27%と高く、今後も増加するとみられています。なぜ、彼女たちは子どもを持たないと決めたのでしょうか……。
 

仕事にやりがいを感じるが、恋愛ができない体質


今回取材を受けてくれた麗奈さん(36歳・仮名)は、PR会社で広報として働いています。前職の企業を退職する時に、同期だったメンバーが立ち上げたスタートアップ企業に転職したのが4年前でした。

 

「ちょうど周りが結婚や出産をしだして、自分としても何かをしなければと、焦りを感じていました。そのタイミングで新規事業に声を掛けられて、中心メンバーとして働けると聞いて転職しました。クライアントのニュースレターの作成から、新商品発表会の運営、企業アカウントの立ち上げなどあらゆることを手がけました。気づいたら35歳を過ぎていましたね」

小柄で可愛らしい印象の麗奈さん。これまで何人かの男性と付き合ってきたけれど恋愛が長続きしないといいます。

「一番長くつきあった人で、半年くらい。着ている服とか、会話の内容とか、つきあい始めるとどうしても相手の嫌なところばかり目についてしまうんです。もしかしたら、母親が厳しかったからかもしれません」

 

麗奈さんは、母親から勧められて中学受験をし、地元からは進学した人がいなかったという名門の中高一貫校に通っていました。

「母親から“共学は野蛮”って言われていたんです。そのため女子校しか受けさせてもらえませんでした。母はバラエティー番組で、お笑い芸人が服を脱いだり、下ネタで笑いを取ろうとすると”本当、最低ね“と言って嫌悪感をあらわにもしていました。もしかしたらそういう記憶が残っているのかもしれないです……」

勉強にも厳しかったという家庭環境のおかげで、麗奈さんは難関私大の文学部に合格しました。しかし、学生時代に心残りがあるそうです。

「高校時代に、塾で仲が良い男の子ができたんです。塾帰りに一緒にファストフードに行くくらいの交際だったのに、母親からは“成績が下がってしまう”と言って反対されて別れました。それ以来、自分から男性をなかなか好きになれないんです。これまでの交際も、付き合うまでは“いいなあ……”って感じるのに、付き合い始めるとどこかしらに嫌悪感を抱いてしまって、自分の方から“別れたい”といって破局しているんです」

 

母親からの「結婚しなさい」というプレッシャー


しかし、35歳を過ぎた頃から“このままでよいのか”と不安にかられるようになってきます。

「職場では、自分より若い20代の子たちが”早く結婚したい“って言うんです。その言葉を聞くと、気持ちが焦ります。一人旅に行くと、なにか食べたり、観光をしても一緒に感動をわかちあう相手がいない。そんな時、ふっと”結婚はしたいな“って思うんです。でも、子どもを見ても可愛いと思えないし、子作りのために性生活をするのも苦痛に感じそうなんです」

現在、麗奈さんには、家族からのプレッシャーものしかかっています。

「学生時代はあれだけ異性とつきあうなと言っていたのに、最近は実家に帰ると“結婚しないの? “って言ってくるようになったんです。”今は仕事が忙しい“って伝えると、”誰か良い人もいないの? いたら連れてきなさいよ“って言うんです」

さらに、麗奈さんの母は「普通は子どもがいて当たり前」という価値観をも押し付けてきます。

「でも、私ももう36歳ですから……。年齢的なこともあるし、母には”子どもは期待しないで“と伝えています」
 

子どもが可愛いと思えない自分は特殊?


麗奈さんは、子どもが欲しくない、可愛いと思えない自分は普通ではないのだろうか……と思うことがあるそうです。

「婚活をしていると、結婚したい=子どもも欲しい、と思っている人がほとんどなんですよね。だから私が “子無し” の選択をしたいと言うと、驚かれるんです。健康上の問題かと思われたり、なかには『じゃあ、なんで結婚したいの?』なんて聞いてくる男性もいて……。『一人は嫌だから』とか『子どもがあまり好きではないから欲しくない』とはなかなか言えず、悩んでいます」

36歳。もし、子どもを望むのであれば、タイムリミットも意識しなければいけません。麗奈さんは「産みたくない」一方で、「産めなくなる」ことに対しても恐怖を感じているといえます。

「最近、大手企業で卵子凍結に費用補助を始めたというニュースを見かけました。今は産みたくはないけれど、いつか子どもが欲しくなるかもしれない。その時のために、卵子凍結をしようか迷っているんです」
 

合計特殊出生率と呼ばれる「一人の女性が一生のあいだに産む子どもの数」(出典:厚生労働省)は2021年には1.30を記録しました。

麗奈さんのように、親からのプレッシャーや将来の不安から“結婚”はしたいものの、仕事のキャリアや育児への不安から“出産を望まない”女性も増えているのかもしれません。かつては結婚とセットのように考えられていた出産ですが、女性の働き方の多様化や、ライフスタイルの変化に伴って、子どものある、なしももっと自由に選んでいけるようになることを願います。


写真/Shutterstock​
文・構成/池守りぜね
 

 

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