男女賃金格差の開示義務化以上に重要なのは、女性の仕事への軽視をやめること
OECDの平均では男女間の賃金格差は12.0%ですが、日本の平均は22.5%と、韓国、イスラエルに次ぐ大きさです。日本では2023年から、上場企業は有価証券報告書で男女の賃金格差を開示するよう義務付けられました。かつて私が勤めていた企業は、現在では持ち株会社とその子会社である事業会社に分かれているので私が入社した頃とは単純比較できませんが、企業サイトを見ると男女間賃金格差は男性を100とした場合に女性正社員は82.6%、パートや有期社員では48.3%、全社員で見ると女性は男性の81.9%となっています。男女間の格差は19.1ポイント。
その理由として以下のように記載されています。
※正社員:管理職における男性比率が高いことに加え、近年、女性の新卒採用の割合が高まっていることで、賃金体系で相対的に給与水準が低い若年層において女性従業員数が増加していることが、賃金差の主要因となっている。
パート・有期社員:有期社員には、様々な雇用区分があり、相対的に賃金水準の高い定年後再雇用の区分における男性比率が高いことが、賃金差の主要因となっている。なお他の区分においては女性の賃金水準が高くなっている。
新規採用の女性比率を見ると、新卒では37.1%、キャリア採用が28.0%。管理職に占める女性割合は16.5%にとどまっています。近年はテレビの現場で見かける女性はいわゆる下請け会社の人も含めてかつてよりも増えていますが、放送局の女性役員はまだ数えるほどで圧倒的に少ない。開示データを見ると男性の育休取得率が7割弱と、かつてよりも改善している面もありますが、私が働き始めた頃から27年、変化のスピードはあまりにも遅いと言わざるを得ません。
他の企業ではどうでしょうか。メルカリの報告書でも明らかだったように、男女間の賃金には説明のつかない格差があります。慣習化した性差別を抜本的に改めなければ、ジェンダー格差は永遠に解消しません。
女性の待遇改善はなぜ軽視されるのか。女の仕事は人生を素敵にするためのオプションに過ぎない、夫が稼いでいるのだからそんなに多く支払わなくても……という考え方が根強いからでしょう。誰もが結婚するのが当たり前で女性は家を守るのが幸せと信じられていた、経済成長著しかった頃の価値観がまだ残っているのです。でも今は一人で生きていく人が増え、共働き世帯でも子供の学費に苦心するのが実態です。
会社勤めをしていた30代の頃、同期と集まった際に「いいよな小島は、旦那と共働きで」と言われたのが忘れられません。専業主婦の妻を養う人や非正規雇用の配偶者と共働きをしている人と比べれば、夫がフルタイムの稼ぎ手である女性の方が世帯年収が高くなるため、同期の男性たちには複雑な思いがあったのではないかと思います。そうした思いは「どうせ夫が稼いでいるのだから、女の仕事は所詮は道楽」という偏見を助長しかねず、暗黙のうちに女性の評価を男性よりも低めに見積もる習慣を生んでいたのではないかとも想像できます。
今、投資家は、性差別を放置する企業に極めて厳しくなっています。企業は投資を誘致するためのアリバイづくりとしてではなく、そもそもジェンダー平等は最も基本的な人権問題であるという認識を持って、男女格差の是正を全力で急ぐべきです。
「僕はジェンダーとか気にしないから、別に話題にしないけど」と言っていた彼は、娘が男性よりも低い賃金しか受け取れなくても「まあ気にするなよ」と言うのでしょうか。言うのかもしれない。「早く稼ぎのいい男を捕まえろよ!」と。娘よ、父を見捨てて走れ。広い世界には、そんなことを言わない人がたくさんいます。あなたの翼を広げ、思い切り羽ばたける場所に、どうか逃げて。この社会は今ようやく変わろうとしているけれど、本気の人がまだ少なくてうんと時間がかかりそう。今いる場所に踏みとどまって変えたい人はもちろんそうするのがいいけれど、他に行き場があるならば、貴重な若さを無駄にしないために、逃げていい。現実を見るからこそ、心からそう思います。
前回記事「「映画『バービー(Barbie)』のBは仏教のB!」女も男もない、我が身を生きるつらさと安らぎ【小島慶子】」はこちら>>
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