時代の潮目を迎えた今、自分ごととして考えたい社会問題について小島慶子さんが取り上げます。
「人間には労働以外にも家族との生活があり、仕事以外の時間も仕事と同じように大事な人生の一部です。人が幸せに生きるには、そのような社会的合意が不可欠なのです。だから、男性がもっと家庭や子育てに時間を割けるようにしなくてはなりません」
先日、来日したフィンランドのパイヴィ・シッランアウケー社会保健省特使と話す機会がありました。彼女は個人的な経験談も交えながら、そう熱心に語りました。父親の8割以上が育休を取得し、先進国で唯一、学齢の子供達が父親と過ごす時間が母親より長い国でもあるフィンランド。議会の半分近くを女性議員が占める、世界で三番目に男女格差の小さい国です。ジェンダー平等先進国のフィンランドでも、まだ「男性を家庭に」と言わなくてはならないのか……ジェンダーギャップ指数ランキングが146カ国中125位の男女格差大国ニッポンの民にとっては、なかなか絶望的な気分にさせられる話じゃありませんか。
フィンランドでも、かつては日本のように、男の本業は仕事、家事は女がやるべしという性別役割分業意識が強かったそうです。今から半世紀ほど前、パイヴィさんが子供だった頃には、現在の日本と同じような、男は家事育児を多少「手伝う」ことはあっても、自分ごととしてやるものではないという空気があったと言います。でも彼女の30代の息子は現在育休中で、新生児の世話はもっぱら彼が行っているとのこと。ここ半世紀で大きく変わったのですね。「息子の世代の男性にとってはもうそれが当たり前なのです」と語るパイヴィさん。
ではなぜ、いまだに“男性よ、もっと家庭に”と言う必要があるのですか? と尋ねると、「それが人間の幸福にとって、そして社会にとって必要不可欠だからです」という答えが返ってきました。一体どういうことでしょう。コーヒーを飲みながら、パイヴィさんは自身の子育てを振り返り、色々な話をしてくれました。
「私は仕事を続けながら子供を産み、離婚もすることができました。シングルマザーとして安心して子育てすることができたのは国の育児支援制度が整っていたから。そう、私は離婚を決断できたんですよ」と強調するパイヴィさん。男女格差が小さく、支援が整っている社会では、女性にその自由があるのだと。高い税金の見返りに手厚い支援を受けられる福祉国家フィンランドと日本を単純に比べることはできないけれど、女性が男性と同様に自立して生きていけるようにするのは当然だという社会的な合意があることが、何より大きな違いでしょう。
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