パリ在住のライター・コーディネーター鈴木ひろこさん、通称チャコさんとスタイリストの福田麻琴さんは旧知の仲。ともにパリとおしゃれが好きなふたりの会話は、パリジェンヌのスタイル論から現代の日本のファッションのあり方へと展開。話題の中心は「なぜ日本では定番アイテムと呼ばれるデニムやシャツを、シーズン毎に更新しようという風潮があるのか」という内容に……。この疑問、多く人が考えたことがあるのではないでしょうか。ふたりの結論はいかに!?

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デニムに白シャツetc.ベーシックな服はずっとベーシック。更新する必要はある?

新品が小っ恥ずかしいパリジェンヌ、ピシッとおろしたての服が好きな日本人【パリから学ぶ大人のおしゃれ】_img0

鈴木ひろこ(写真左)● 東京でスタイリストとして活躍後、渡仏し、パリ在住歴30年を越える。現在は「フィガロジャポン」を始めとする女性誌を中心に、ファッション撮影のキャスティングやオーガナイズ、取材、執筆などを行っている。また、日本のセレクトショップでも人気のライフスタイルブランド「LERET.H/ルレ・アッシュ」もディレクターを務めている。チャコさんの愛称で親しまれている。
福田麻琴(写真右)●女性誌を中心にスタイリストとして活動中の2009年にフランスへ留学。帰国後はスタイリストだけに留まらず、エッセイの執筆やブランドディレクション、コラボ商品開発など幅広いジャンルでマルチに活動中。プライベートでは1児の母。パリ好きが高じて、パリを愛する21人に取材した『PARIS MANIAQUE 寝ても覚めてもパリが好き』(イースト・プレス)を刊行。mi-mollet STOREのディレクターも務めている。

 

チャコ:日本のメディアでときどき言われている「ベーシックこそアップデート」ではなくて、ベーシックはベーシックだからシーズンごとに変え続けなくていいと思う。

麻琴:すみません、私もよく言っていた気がします……。

チャコ:たぶん日本は対応力のある優秀なブランドが多いからなのかも。特にデニムの世界でいちばんといって過言ではないほど優秀なブランドが多いじゃない? たしかに私も日本に帰国して新しいデニムをショップで見るとワクワクしちゃうもん。でも、はたと冷静になるのよ(笑)。

麻琴:(笑)。日本のデニムは本当に優秀だし、いいものが多いもの確か。でも、本当にちょっと目を離すとトレンドが変わっていて驚くのも事実なんですよね。ハイウエストが主流になったり、シルエットはカーヴィなものやワイド、フレアーが増えてきたり……。

チャコ:優秀だからこそ要望に応えて細やかにアップデートがされて、いつの間にかトレンドが反映されるアイテムになっているのかも。フランスは日本ほどはっきりとしたトレンドがないと思う。だからトレンド(流行もの)ではなくて、スタイルを作るのがパリ流。

麻琴:だから少し前のものでも、古く感じちゃったりするんですよね。若いときはトレンドに次々に乗っても穿きこなせたけれど、大人になるとどんどん買うことにも気後れしちゃうし、トレンドによっては手を出しにくいものもあって……。よく大人になるとデニム離れする人が少なくないという話を聞くけれど、そういっためまぐるしい変化についていけないのも一因なのかも。
 

新品が小っ恥ずかしいパリジェンヌ、ピシッとおろしたての服が好きな日本人

新品が小っ恥ずかしいパリジェンヌ、ピシッとおろしたての服が好きな日本人【パリから学ぶ大人のおしゃれ】_img1
 

チャコ:あとは文化の違いもあると思うな。日本に帰ると、みんながタグを切ったばかりの”おろしたて”を着ているんじゃないかっていうくらいに新しくてピシッときれいな服を着ている。そこはパリとは感覚が真逆なんだよね。新しいものは小っ恥ずかしいのよ、パリの人たち(笑)。だから新品を買ってもくしゃくしゃにして着込んだ感を出したり。お洋服の話ではないけれど、髪をサロンで切ってもらってキレイにブローしてもらっても、店を出たところでワンちゃんみたいにブルブルっと頭を振って、あえてぼさっとさせるのよ(笑)。とにかくピシッとした新しいものがイヤなんだろうな、というのはすごく感じるかな。

麻琴:日本人はピシッときれいなものを着ている人、多いですね。丁寧にリペアして着続けるより、新しく買うほうが安上がりなことも今の日本では往々にしてあるし、“安い”ことで得しているという空気はあるかもしれません。

チャコ:パリはファッションの都なんて言われるけれど、普通に暮らすパリの人たちって日本の人に比べるとずっとコンサバ。夏はだいたいカシュクールの小花柄ワンピースだし、あとデニムはたいていリーバイス。

麻琴:それは私が留学していた10年以上前も、最近のパリも変わらないですね。スニーカーだって、コンバースかスタンスミスを履いている人が多い。それも結構みんな履き古してクタッとしてる(笑)。もちろんトレンドや新しいものを身につけている人もいるけれど、日本ほどはいないですね。

チャコ:私は日本でも仕事をしているから、日本のファッションもチェックしていて。でも、トレンドに対するフットワークの軽さとかスピード感に触れると、フレッシュな気分にもなるし、頭が柔軟になって、勉強にもなるの。培われてきた文化や環境もあるから、一概にどちらがどうともいえないし、一長一短だとは思うけれど、パリの人たちの、トレンドや他人の目線よりも、自分の気分やスタイルが第一なところはすごく好きだな。
 

トレンドにも“年齢の呪縛”にも囚われず、自分の好きなモノ、着たいモノを着る

新品が小っ恥ずかしいパリジェンヌ、ピシッとおろしたての服が好きな日本人【パリから学ぶ大人のおしゃれ】_img2
 

麻琴:その点は私がパリに留学したときに最も影響を受けたところですね。話が戻りますが、さっきのデニム。どうしても日本だと自分に似合うか着たいかよりも、それが今のトレンドなのかを基準で考えちゃうからアップデートしないといけない気持ちになるのかも。“自分”が基準なら毎シーズン変える必要性もないですもんね。そこはやっぱり見習いたいかな。

チャコ:それはあるかもね。“トレンド”や“人の目”が気になってしまう。そうそう、あまりにも暑くてミニスカートを穿いていて、それをインスタにあげたら、とある日本の大人向けの雑誌の方から「大人世代に衝撃と勇気を与えましたよ」って連絡が来て(笑)。

麻琴:日本だと○歳なのにミニはどうなの? みたいな年齢の呪縛もありますよね。私自身は気にしないほうではありますが、それでも何年もミニは穿いていませんでした。でも、5年ぶりにパリを訪れてマダムたちの着こなしを見ていたら、穿いてみようかなという気持ちに。私も勇気をもらいましたよ(笑)。

チャコ:そうそう。自分が着たいと思ったら、着ちゃえばいいの。実際はそんにみんな見ていないから。何にも囚われず、自分が思うままに自由におしゃれを楽しんで欲しいなあ。ベーシックだけもいいし、気になったらパッとトレンドを手に取ってもいいし。

麻琴:本当にそうですよね。日本がダメでパリがいいとか、日本がよくてパリはダメとかそういうことじゃなくて、どちらからも自分がいいと思ったエッセンスは受け取って、自分の気持ちを大事におしゃれを楽しみたいですよね。でも、まずは“ベーシックこそ更新”じゃなくて、“ベーシックは更新しません”宣言しておきます(笑)。

チャコ:そうそう、まこっちゃんとかおしゃれで発信力のある人に、もっともっと大人の女性が自由におしゃれできるように提案していってほしい!

麻琴:頑張ります~!
 

撮影/新村真理
構成・文/幸山梨奈
 


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