——療育施設の先生方、とくに主任の先生は、娘さんはもちろん、工藤さんにも体当たりで指導をしてくれたそうですね。
はい。当時の私は母親になりきれていませんでした。そんな私の目をなんとか覚まさせて、現実に向き合わせ、状況を理解させ、母親にしなくてはならない、先生はそう考えられていたように思います。
療育施設に預け始めて数ヵ月後、ようやく1時間、2時間と母子分離ができるようになりました。ずっと母子分離ができていなかった私は嬉しくて……、ランチをのんびり食べてしまい、お迎えの時間が5分ほど遅れてしまったんです。そのときは、玄関で鬼の形相で叱られました。
——わずか5分の遅刻で、ですか?
娘のような子にとって、5分は“わずか”な時間ではなく、とてつもなく長い時間なんです。そのことを当時の私は今ひとつ理解できていなかったんです。
「お母さん! 娘さんの気持ちを考えてあげてください」お迎えにいく時間が決まったら、必ず守ってください。お子さんのような子にとって、1分は私たちのような1分じゃないんです。もっと、もっと長いんです。せっかく母子分離できたのに、不安定になりますよ。ちゃんとお迎えに来てくれる、そう安心できることを積み重ねてください!」
その言葉にしゅんとなりましたが、自閉症の子にとって、時間を守ってあげることが、次の見通しをしっかり持って、精神の安定をもたらすことにとても大事だということ、時間の感覚が私よりも、ずっと敏感で大切なものであるということを学びました。
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