写真:YONHAP NEWS/アフロ

BTSはなぜ、世界の人々を夢中にさせるのか――。

社会学やマーケティングなどさまざまな分野からBTSについて研究・発表するBTS学会が、今年8月マレーシアのクアラルンプールにあるマラヤ大学で開催されました。4回目となる今回は、「東南アジアとBTS」「BTSの未来」を大きなテーマに、約60人が発表しました。インドやインドネシア、ブラジルはARMY(BTSのファンの愛称)がたくさんいる地域としても知られています。それぞれの国での人気の理由を探るべく、マレーシア取材を敢行。インタビューからは、各国の意外な事情が浮き彫りになってきました。前半では東南アジアのARMYの声をお届けします。

 

コロナ禍のあいだに周りのママ友たちが次々とARMYに! BTSが子育てや家庭にどのような影響を与えているのか調査


ウスワトゥン・ハサナ(インドネシア/インディペンデント・リサーチャー)

 

2014年からARMYです。ずっと前から東方神起やBoAなどのK-POPを聴いていました。J-POPも好きで、宇多田ヒカルやONE OK ROCKも。そんななかBTSの「BOY IN LUV」をYouTubeで聴いてファンになりました。BTSの音楽は、ラブソングだけではなく、社会に対するメッセージが多く込められているところが好きです。

BTS学会で発表したテーマは、「BTSがコロナ禍にインドネシアの母親に与えた影響について」です。わたしも4歳の子どもがいる母親ですが、コロナ禍のあいだに周りのママ友たちが次々とARMYになっていることに気づいたんです。

そこで、BTSがインドネシアの母親たちの子育てや家庭にどのような影響を与えているのかを調査することにしました。60人の母親ARMYを対象にしたインタビューの結果、73%の人が「BTSがコロナ禍での一番の癒しだった」と回答し、80%が「夫との関係が改善された」、62%が「子どもとポジティブに向き合えるようになった」と感じていると明らかになりました。BTSの歌詞やメッセージを通じて、母親たちが自分自身や家族をより深く愛するようになったと。インタビューでは多くの人が「愛」「絆」「癒し」「希望」という言葉を繰り返し語っていました。これほど影響があったとは、驚きましたね。インドネシアでは、共働きでも妻が家事のほとんどを担います。仕事と家庭のプレッシャーが大きい。家事の合間にBTSの音楽や動画を楽しんで、気分をアップさせているのです。

第4回BTS学会が開催されたクアラルンプールのマラヤ大学。

インドネシア人の多くは、敬虔なイスラム教徒です。インドネシアの文化では、つらいときも顔に出してはいけないとされています。「ぐっとがまんして、周りの人に親切に振舞うべき」「母親は母親らしく」と。数年前までは、母親世代が推し活をするのは一般的ではありませんでした。わたしもBTSが好きな人が周りにいなくて、孤独だった。でも、いまではみんなBTSの話をオープンにしていて、SNSでもとてもアクティブです。彼らは癒しのもと。つらい時、疲れた時にはBTSを聴き、動画を見る。彼らはいつもそばにいる。人生はトラブルばかり。だからBTSが好きなんです。インドネシアの母親たちは、コロナ禍で大きく進化しました。