遺産トラブルの約78%は相続財産5000万円以下
以前、相続税について解説したこちらの記事で、遺産分割トラブルの約78%は相続財産が5000万円以下で、そのうち約35%が1000万円以下と紹介しました。相談者の真理子さんは「我が家は一般家庭」とおっしゃっていますが、トラブルの火種は資産の額とは関係ないのです。
相続財産は現金・預金のほか、分割が難しい土地や建物も含まれます。たとえ資産が少額であったとしても、遺言書の内容に納得がいかず、それまで仲の良かった家族が争うケースは珍しくありません。
遺言は、自分の財産を誰にどのように残したいか、自分の意思や想いを確実に伝えるための手段です。遺言書は、誰に何を相続させるかを決めることができる、民法で定められた法律行為となります。なお、遺言には「ゆいごん」と「いごん」という2つの読み方があり、厳密には「いごん」が法的効力を持つものとされています。
遺言書は本人が自筆で作成することもできますが、便せんに一筆記載しただけでは効果がありません。法律に沿った様式で記載していく必要があり、また仮に保管場所を自宅にしてしまうと、紛失や盗難、偽造や改ざんの恐れがあったり、せっかく準備しても発見されないこともあります。
遺言書があった方が良いケースとは?
遺言書がなかったとしても、以下のように法定相続に従って相続は行われるので、必ずしも遺言書が必要というわけではありません。
ただし、法定相続人以外に財産を残したい人がいる、不動産を特定の相続人に相続させたい、遺産争いを避けたい場合などは遺言書が必要です。遺言書があった方が良いケースとしては、次のようなケースが想定されます。
来年2024年4月1日以降は、これまで任意だった相続登記の申請が義務化されます。相続などによって不動産を取得した相続人は、相続したことを知った日から3年以内に相続登記申請をしなければ、10万円以下のペナルティが科されることになりました(正当な理由がない場合)。不動産は、相続の中でも分割困難で揉めやすい財産です。生前にきちんと家族で話し合い、家族仲が平和であっても必要に応じて遺言書を準備しておくと良いかもしれません。
遺言書は「自筆」と「公正」の2種類
遺言書には、遺言者自らが手書きで書く「自筆証書遺言」と、公証人が遺言者から聞いた内容をまとめて公正証書として作成する「公正証書遺言」の2種類の様式があります。
自筆証書遺言書は、紙、ペン、印鑑があれば特別な費用もかからず手軽ですが、方式に不備があったり、保管自体があやふやにもなりかねません。そうした問題を解消するため、自筆証書遺言書とその画像データを法務局で保管する「自筆証書遺言書保管制度」が、2020年7月から始まりました。こちらの制度は全国312カ所の法務局で利用することができ、遺言書1通につき3900円で保管してもらえます。遺言書の様式例や注意点などは、こちらで詳しく紹介されています。
公正証書遺言は、公証人と証人2名の立ち合いのもと公証役場で作成されるもので、そのまま公証役場に保管されます。こちらは公証人に支払う手数料が法律で決められており、遺言の対象となる相続財産の価額によって異なります。1000万円超え3000万円以下は2.3万円、5000万円超え1億円以下は4.3万円など、およそ2万~5万円程度。司法書士に作成を依頼した場合は別途報酬がかかります。
なお、自筆にせよ公正にせよ、親が認知症になってしまうと遺言書は作成できません。認知症は徐々に進行していくものなので、遺言書を作成した当時、本人にどの程度の意思能力があったかどうかが問われます。認知症の方が残した遺言書に関しては、トラブルも多いので注意や対策が必要です。
遺言書の内容
遺言書には、法律上の効力が生じるものが定められており、これを遺言事項といいます。
①財産に関すること・・・相続人の誰にどの財産を取得させるのかを指定する場合など
②身分に関すること・・・非行などがあった相続人の相続権を奪う場合など
③遺言執行に関すること・・・墓などの祭祀主宰者(墓守)の指定など
このような遺言事項に対し、法的効力はないものの、自由に書ける「付言事項」もあります。付言事項は、遺された家族に想いを伝える最も大切なメッセージです。遺言の効力が生じるのは、遺言を書いた人が亡くなったあと。想いをしたためておくと、家族も気持ちの整理がしやすくなるのではないでしょうか。
なお、遺言書は遺言者が一番先に亡くなることを想定して書かれますが、必ずしもその順番通りになるとは限りません。「長男にすべての財産を相続させる」と書いていても、長男が遺言者より先に亡くなってしまった場合は効力がなくなり、遺言書がなかった場合と同様に相続人同士で遺産分割協議をすることになります。相続人が亡くなることを想定した予備的遺言もありますので、心配な方は弁護士などの専門家に相談してみてください。
最後に、渋澤の知人には、遺言書(いごんしょ)と遺書(いしょ)を混同されている方がいました。遺言書は、今回説明したように民法が求める一定方式に従い作成されたもので、法的効力があります。それに対して遺書は、死後に言い残す言葉を記載したもので、形式や内容は自由で法的効力はありません。この点に注意してください。
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
イラスト/Sumi
編集/佐野倫子
前回記事「遠方に住む親が倒れた!さぁどうする...?【遠距離介護のコツ】」>>
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