高齢者に孤食が広がる理由


美和子さんのお母様のように、1人で食事をとることを「孤食」と呼びます。「孤独な食事」を指す言葉で、家族がいても1人で食事をするのは孤食に当たります。できれば1人で食べたくないけれど、仕方なく孤食になってしまう背景として、世帯構造の変化が挙げられます。

単独世帯や夫婦のみの世帯、ひとり親世帯の増加によって、誰かと食事を共にする機会は全体的に減ってきました。農林水産省が2020年に発表した「食育に関する意識調査」によると、1日の食事すべてを1人で食べる頻度について、「ほとんど毎日」と答えた人は13.7%。性別/年代別に見ると、70歳以上の女性が27.6%と最多で、20歳代の男性が23.8%と続いています。

2040年には、65歳以上の男性高齢者の20.8%、女性高齢者の24.5%が一人暮らしになると予想されており、孤食の割合は今後さらに増加していくのではないでしょうか。

 

さまざまな「こ食」


孤食は「1人で食事をとること」ですが、「こ食」という言葉をご存知ですか? 孤食、個食という言葉から派生して、現在は「粉食」「固食」など、さまざまな種類があります。

日本educe食育総合研究所のWebサイトでは、こ食についての説明がありますが、そこでは近年の食生活の中で子どもに悪影響のある食べ方が指摘されています。成長期を迎える子どもにとって、孤独感や栄養の偏りはその後の成長にマイナスの影響を与えますが、高齢者も年々これら「こ食の問題」が出てきています。

 

①~⑥までが日本educe食育総合研究所が挙げているもので、今回、筆者はあえて⑦として古食を追加しています。私は以前、母を遠距離介護していましたが、認知症になってからというもの、帰省する度に古そうな食材や冷蔵庫に入ったままの出来合いのおかずを破棄していました。消費期限が過ぎている食品があったとしても、その事実を理解し難いのが高齢者の特徴でもあります。

なお、こ食はこれ以外にも「子食」「戸食」「枯食」「倉食」など新しい言葉が生まれていますが、すべて良い意味では使われていません。

家族ができる孤食対策


筆者が母を在宅介護していたとき、日中は「小規模多機能型居宅介護」という介護事業者を利用していました。フルタイムで働いていたので、母の送迎時間はこちらの帰宅に合わせて19時頃。その時に苦労したのが食事の支度です。

介護度が進行するにつれ、母と家族の食事では食材も軟らかさも違ってきたことで、大変さが増すように。さらにお腹を空かせた家族が母の食事介助のタイミングで食事をしてしまい、結局は自分が孤食となる始末でした。今となっては、夕食までを施設にお願いすべきだったと思っています。

現在は、「晩ご飯を1人で食べるのは寂しい」、「今まで通りお風呂は夜に入りたい」という親の希望や、「夜間の食事介助や見守りが難しい」という家族の要望が叶うような、夕方から夜にかけての夜型デイサービスも出てきています。夜型デイサービスに限らず、近年はさまざまな要望に合ったサービスが生まれているので、ぜひ活用してみてください。

また、介護はまだ先だけど、親の孤食が気になるという方は、以下のような方法を試してみるのはいかがでしょうか。

 
①共食の機会を探す誰かと一緒に食事をすることを「共食」といいます。食事を共にする相手がいるだけで、美味しく感じて食欲も湧くと言われていますが、高齢者に限らずそう感じている方は多いのではないでしょうか。ただし、若い方と違って気軽に外食ができないのが高齢者の大変なところ。そこでもし元気であれば、料理教室に通ったり地域の食事会へ参加したり、デイサービスやショートステイを利用するのも有効です。施設では、管理栄養士が高齢者向けのメニューや栄養バランスを考慮した食事を作ってくれるので、低栄養などのリスクを減らすこともできます。

②オンラインでつなぐ少しハードルが高いかもしれませんが、オンラインでつないで同じ時間帯に食事をとるというのも1つの手です。毎日つなぐのが難しければ、週に1回程度でも構いません。家族全員が揃わなくても、親子で会話をしたり、映像を共有しながら食事をするだけで、リフレッシュできるのではないでしょうか。その時間が待ち遠しいとなれば、生活にメリハリが生まれて楽しみも増えていきます。


高齢者の孤食は寂しさ以外のリスクも


1人で自由気ままに食事をするのは決して悪いことではありませんが、孤食による悪影響はどうしても付きまといます。孤食は「1人での食事が寂しい」という気持ちの問題にとどまりません。低栄養やうつ病のきっかけになり、健康寿命を縮めるリスクもはらんでいます。

美和子さんの母親のように、1人であるがゆえに、簡単に食べられるものや調理が面倒でないものを選びがちで、偏った食事を続けていると栄養バランスも崩しかねません。また、「面倒だから食べない」を繰り返すと、食事を飲み込む嚥下機能も低下していきます。

今は両親が揃って元気でも、いつかは訪れる孤食の問題。親だけでなく、自分自身にもいつの日にか降りかかってくる問題として、今から孤食について考えてみてはいかがでしょうか。


構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
イラスト/Sumi
編集/佐野倫子

 

 

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