外に向けていた目標を、自分自身に向けてみる

 

——宝塚は、望海さんにとってどんな場所だったと思われますか?

望海 観に来てくださる方も本当に宝塚が大好きな方々ですし、本当にホームでした。あの世界でしか出せない空気感があり、いってみれば宝塚は私にとっては青春で、今はもう絶対に戻ることができないと思うくらい、全力で駆け抜けていった場所という感覚です。

——そんな青春一色だった場所からの巣立ち後も、各方面から引っ張りだこの望海さんゆえ、どんどん流れ込んでくる真新しい価値観に戸惑うこともあったのではないでしょうか。

望海 連載が始まったときにも話したのですが、自分が何をしたいのかも分からないし、どうなりたいかも分からない。だから、「連載を始めるので、対談してください」と言われても、誰と対談すればいいのかも分からない状態でした。“宝塚”という人生最大だった夢が終わったときに、「あれくらい人生を賭けられるものに出合わなきゃ」と最初は少し急いでいた気がします。

でも、いまだに自分がどうなりたいという明確な目標がない中で、ずっと外に向けていた目標が外ではなく、自分自身に向かうようになったのかなと思うんです。そのために何かしなくてはいけないというより、「ここが本当に自分の落ち着く場所なんだ」というものに出合うまではゆっくり探していけばいいかなって。

そのためにも頑張って仕事をしたいですし、本当の自分自身を大事にできる場所や、周りの人たち……。今は、そういう環境を探していくのが楽しいですね。

 

「男役の苦労」を知るスタッフたちの助けを得て


——宝塚の外の世界のことは先輩からも聞いていらしたと思いますが、想像していた世界とは違っていましたか?

望海 私よりも、カンパニーの方やスタッフの方など一緒にやってくださる方々のほうが「宝塚出身の男役がどういうことで苦労するか」というのをよくご存じなんです(笑)。私のほうが初めての経験だから分からなくて。もちろん聞いていたよりも大変で、「これを乗り越えないと!」と挑むわけなんですが、皆さん、そういう先輩方を見てきているので、私は助けてもらう一方でした。

そういった意味でも、私たち後輩は先輩方にまだまだ助けてもらっているのだと改めて思いましたし、今の自分を受け入れてくださる環境が温かくて、そしてあらゆることに柔軟に対応してくださるのがとても嬉しかった。飛び込む前は怖いと思っていましたが、皆さんの優しさが本当にありがたい! と思いました。